第4話
ナザリック地下大墳墓 第九層 BARナザリック
ナザリックにおける第九層の位置付けは、ギルメンのプライベートエリアと共通フロアにわかれ、共通フロアには円卓の間などもあるが、それ以上に食堂や図書館、スパなど各種福利厚生施設が軒を連ねている。
その福利厚生施設の中に、まるで隠れるようにひっそりと佇む小さな店が一軒。木の重い扉を押し開けると、そこには品の良いBARがある。シックにまとめられたマホガニー製のカウンター席。六人かけのテーブル席が少々。けして広くはない店内だが、観賞用植物や店に流れるBGMも相まって、外とは隔絶した空気を楽しむことができる。
「いらっしゃいませ」
声をかけられ視線を向けると、一人のバーテンダーがグラスを磨きながら佇んでいた。
「開いてますか?」
「はいデミウルゴス様。カウンター席にどうぞ」
第七層の守護者であるNPC、アーチデビルのデミウルゴスはゆっくりとまるで決まっていたかのようにカウンター席に座る。隣にはちょうど第五層の守護者であるNPC、蟲王のコキュートスがビール・カクテルを傾けていた。
「コンナ場所デ合ウトハ、珍シイナ」
「そうですね。お互い守護階層が違いますから、なかなかこうして顔をあわせる機会自体珍しいといえるでしょう」
デミウルゴスが席に座ると、小皿が置かれる。クルミや数種類の豆に塩を振ったシンプルなお通しがおかれる。
「ミックスナッツです。お飲み物はいかがなさいますか?」
「任せるよ」
「かしこまりました」
デミウルゴスはバーテンダーに注文すると、間をおかずに赤いスパークリングワインが置かれる。透き通る赤に揺らめく泡。グラスを近づければフルーティーな香りが鼻孔をくすぐる。
「銘柄は?」
「宮崎産のスパークリングワイン・レッドにございます。濃厚な甘やかな香りと、ドライハーブを思わせる風味が特徴にございます。疲れたお体を癒す最初の一杯には良いものかと」
デミウルゴスはバーテンダーの話を聞きながらグラスを傾ける。ブルーベリーやプラムのような香りだが、しっかりとした味が舌を楽しませる。なにより、よく冷えたスパークリングが、喉を楽しませる。
「良いセレクトですね」
「ありがとうございます。料理などはいかがいたしましょうか?」
「そうだね。コキュートスと食べれるものをもらおうか」
「かしこまりました」
バーテンダーは注文を受けると、素材を取り出し料理の準備をはじめる。
デミウルゴスは、それを横目にコキュートスに話しかける。
「おまたせしました」
「ナニ、ココデノヒト時ヲ楽シンデイルダケダ」
「そうですね」
二人はゆっくりとグラスを合わせる。
チン
小さな音が店内に響き渡る。
いまこの店には、デミウルゴスとコキュートス、バーテンダーのほかには、奥のテーブル席でビール片手にポテトの山盛りとアメリカ人のように大量のケチャップで食べるヴァンパイアとワーウルフしかいなかった。
たしかに職権ではデミウルゴスとコキュートスは上位者であり、奥の席の者たちは下位のため礼を尽くす必要があるかもしれない。
しかしここは酒と料理の一時を楽しむ場所。
無粋と考え、二人は何も言わなかった。
「今日は至高の御方からの呼び出しでしょうか?」
「アア。新シイ武器ヲ賜ッタ」
「それは良かったですね。私もウルベルト様より新たなアイテムを賜りました」
「ホホウ」
二人は今日、この場であったことを情報交換する。
しかし、それぞれ別のことを知覚していた。
「最近のナザリックをどう感じておりますか」
デミウルゴスは空いたグラスを置き、ながら問いかける。
「戦ノ前」
「なるほど、武人たる貴方らしい感想ですね」
コキュートスの回答に、薄い笑みをうかべながらデミウルゴスは、琥珀色のウィスキーを受け取る。
「北ハイランドのダルウィニーにございます。数々の銘酒の原酒となった作品です」
デミウルゴスはまるで煽るように半分ほどを飲み干し、喉から湧き上がる香りを楽しみながら言葉を選ぶ。
「ナザリックの総力戦がはじまるかもしれませんね」
「ソウ感ジタカ」
「ええ、少し前までの至高の御方々は覇気が若干なくなっておられました。数多くの宝、力を手に入れたことで目標を見失っているようにも見えていましたが、今日のウルベルト様は違いました。そう私達が生み出されたころの、ギラギラとした瞳をされておいででした」
「武人建御雷様モ同ジダ」
実際、二人が感じていることは正しい。最近までアインズ・ウール・ゴウンの面々はワールドアイテムの収集に始まり、鉱山の占有、レイドボスの撃破と数多くの冒険や成果を積み重ねてきた。そしてギルドとしても当初から人数が増え四十一人となり、ある意味で絶頂期を謳歌していたのだ。
しかし、ちょうど公式イベントの切れ目とリアルが年度末が近いこともあって、若干中だるんでいたのも確かだ。
NPCたちもその空気を読んでいた。
もっとも、それに対して何もできない事を歯がゆく感じていたところに、今日の出来事である。
「ええ、楽しみでしょうがありません。我が智、我が技、すべてを賭して至高の御方々にお仕えすることができるのですから」
「アア、ソノ通リダ。我ガ武。我ガ忠義。存分ニ発揮シヨウゾ」
二人は近付く闘争を前に、抑えられぬ熱を感じるのであった。
それが後の歴史で千五百 対 四十一。戦力差四十倍の殲滅戦と記録され、アインズ・ウール・ゴウンを一つの伝説にまで押し上げることとなることを、まだ二人は知らない。
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