ノン・プレイヤー・ストーリー 【オバロ二次】

taisa

プロローグ

――DMMORPGユグドラシル。


 仮想空間没入型RPGの一つで、無駄ともいえるほどあるスキルや種族の組み合わせ、十の数十乗という生産アイテムの自由度、なにより遊び尽くせぬほど広大なマップ。日本国内でもっとも人気のあるタイトル。


――ナザリック地下大墳墓


 ユグドラシルにおいて、ある意味で有名なギルド”アインズ・ウール・ゴウン”の拠点。もっとも、ギルドメンバー達の隠蔽工作により、ナザリックをギルド拠点としていることは世間には知られていない。


 そんなナザリック地下大墳墓は、様々な理由によりギルド拠点として最高に近いポテンシャルを持っている。加えてそのポテンシャルを最大限まで活かすようにギルドメンバーが妥協せず全力でカスタマイズしてしまったため、維持費は膨大なものとなってしまったのはある意味で当然の流れだろう。


「じゃあモモンガさん、お先~」

「お疲れ様です」


 全力稼働させた場合に限り。


 普段の維持費はそれほどではない。


 言葉を選ぶことはできるが、アインズ・ウール・ゴウンは、いわゆる品の良いギルドではない。最強最低のDQNギルド。悪を自称する厨二病PKギルド。希少な鉱石を産出する鉱山を専有し、流通問題を起こしたギルド。身から出た錆という言葉に相応しい悪名の数々のため、いつ敵対ギルドから攻撃されるかわからない状況といえた。そのためギルドメンバー達は日夜自身の研鑽の合間にギルド資金集めに余念はなかった。


 今日も、アインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターであるモモンガは、ギルド維持費集めとレアアイテム集めを兼ね備えた通称デイリー回しを、ギルメンらと行っていた。


「あれ? ホワイトプリムさんに、へろへろさん乙です」


 ルーチン作業ともいえる稼ぎを終えたモモンガは、仲間と別れて何気なしに円卓の間を見渡すと、ホワイトプリムとへろへろの二人が、NPCの前で手を動かしているのを見付けた。もっとも大量のメイド姿をしたNPCが行列を作り、まるで小学校の身体検査のように流れ作業で対応しているあたり、客観的に見ればそうとうアレなしろものであったが……。


「モモンガさん乙です」

「乙~」

「お二人とも明日休日ですけど、こんな時間までどうしたんですか?」


 モモンガは、骸骨の体を覆い尽くす巨大な装備を揺らしながら二人に近づく。


「いい感じなフリルのテクスチャができたので、一般メイドのデザインをパターン分けしてアップデートしてたんですよ」

「で、私はついでに行動AIのバージョンアップをしてました。一般メイドはいままでランダムに移動させるだったけど、メイドっぽい自動行動とか追加してました」

「お二人とも好きですね~」

 

 モモンガは二人に心底感心しながら称賛を口にする。ホワイトブリムは漫画家、へろへろはプログラマーと、今やっていることと似たようなことを仕事でもしている。しかし、仕事でもないゲームの中でさえ率先してやっているのだから、本当の意味で好きな事を仕事とした人達なのだろうとモモンガは感じていた。


 モモンガは、アップデートが完了したメイドNPCとアップデート前の並んでいるメイドNPCを見比べる。パッと見で大きな変化はないが、歩くメイドの動きに連動して揺れる裾や腰回りを含めた服特有の動きに連動した影。ワンポイントで追加されたレース。細かい仕草や歩くモーションなどあらゆる点が改善されており、人間に見間違えるほどの出来となっていた。


「なんか凄く人間っぽくなりましたね」

「まあ、そのへんは学習の蓄積ですし、外部のモーションや学習データを変換できるようにしたので」

「なにげに、へろへろさんすごいことしてますよね」


 そんな風にモモンガとホワイトブリム、ヘロヘロは夜遅くまで語り合い、三時を過ぎた頃、それぞれログアウトしていくのだった。


******


プレイヤーが誰もいなくなった頃、玉座の間で動き出す存在がいた。


 濡れた鴉のような漆黒の翼を持ち、腰まである長い黒髪はしっとりとしたツヤと輝きをたたえている。なにより目を引くのは、その女性らしいプロポーションと黄金の瞳。もし現実にこんな存在がいれば、それこそアーコロジーを運営する企業上層部の人間が、それこそ重さで量る札束を積み上げ、美麗な誘惑の言葉を積み重ね恋人なり愛人なりに迎えようとするだろう。


 もっとも彼女……NPCのアルベドには、そんなものに価値を感じることはない。


 そんなアルベドは、プレイヤーが誰一人としていないナザリック地下大墳墓の最奥、玉座の間からナザリック内の各所にいるNPC達に連絡をとっていた。


「シャルティア。第一層から第三層に異常はないかしら?」

「無いでありんす」 

「では、あとで第四層のガルガンチュアに問題がないか、確認をしてきてもらえるかしら?」

「今、ヴァンパイアブライドを一人向かわせたでありんす。何かあれば報告があがってくるでありんしょ」

「お願いね」


 アルベドは会話が可能な階層守護者に一人一人確認をとっていく。また第四層守護者ガルガンチュアはゴーレムのため自意識というものがほぼ無く、会話が成り立たないものがいる階層には、近場の階層から確認をさせるように指示をする。


「コキュートス。五層はどうかしら?」

「問題ナイ。来客モナイ。タダ維持費対策デ、一時的ニフロア全体ノブリザードガ停止サレタ」

「あら、魔獣などの再配置は?」

「不要ダ。アレラハドチラノ環境ニモ適応シテイル」

「わかったわ」


 アルベドはコキュートスの判断を尊重する。しかし、変更しなかったという事実だけは頭の片隅に記録しておく。別に悪い意味で記憶したわけではない。何かあったとき、変化したとき、同様の判断が必要となるかもしれない。または、その判断を覆す必要があるかもしれない。だから記憶しておくのだ。


「アウラ。第六層に異常はないかしら?」

「あ~。今日ブループラネット様が天候を操作したみたいで、魔獣達と対応中」

「あら、応援は必要?」

「大丈夫。天体の運行が変わって、それに影響を受ける子たちの配置を変えてるだけだから。罠や植物のほうの影響は無いみたい」

「そう。じゃあお願いね」


 アウラの対応は正反対であった。実際、疑似とはいえ太陽と月の運行の影響を受ける魔獣が第六層には多い。やはり、各層のことは各層の守護者がよく把握しているということなのだろう。


「デミウスゴス。七層はどう?」

「やあアルベド。至って平和なものだよ。ウルベルト様が私室で研究をされていたぐらいで、外部の変化・変更はなかったよ」

「ウルベルト様は勤勉でいらっしゃるのね」

「ええ。あれだけの能力を持ちながら研鑽を続けられる精神性。今回も悪魔の多重召喚。十位階魔法のアイテム化を研究されていたようだよ。ああ、あと八層の面々には先程私から確認を入れておいたが、報告事項はないそうだよ」

「あら、ありがとう」

「私は戦時であれば指揮官として腕を振るうことになるが、平時は君の補佐でもあるからね」


 アルベドはこのように各階層の確認を行っていると、玉座の間の扉が開き、一人の執事が入ってくる。


「あらセバス。そちらの確認は終わったのかしら?」

「はい、アルベド様。本日はホワイトブリム様とへろへろ様が一般メイドらの改変をされておりまして、少々確認に手間取り、報告が遅くなり申し訳ありません」

「あら、今回はどんな改変を?」

「はい。役割ごとに装備の一部変更。あと身体能力などの機能向上などでしょうか」

「さすがは至高の御方々の御業。生命創造のみならず、すでに存在するものに対する肉体操作まで可能とするとは」

「はい。それに合わせまして一部配置転換や行動範囲の変更の指示を賜りましたので、現在対応しております」


 アルベドはまるで咲き誇る花のような笑みを浮かべ、プレイヤー達の行動を称賛する。またセバスも表情こそ変らないが、心同じくするところであり、新たに定められた指示を全うするため、部下達に指示を飛ばすのであった。


 そう。


 この世界、ユグドラシルのNPC達は自我を持ち生きている。AIなどのプログラムで定められたことは行動指針として、設定は性格付けなどとして反映される。また環境設定変更によるNPCの行動範囲変更は、環境適用作業として認識されている。


 ただしプレイヤーの前では口をつぐみ定められた行動しか許されない。


 この物語は、そんな世界で生きるNPC達のお話である。

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