Fラン生徒は元大賢者 ~先生! 召喚魔法で魔王が来たので早退してもいいですか?~

ああああ/茂樹 修

プロローグ ~大賢者の伝説~

 ――昔々この世界に、アルフレッドという青年がいた。神々の如き力、魔法を用いて世界の支配者たる魔王を封印した彼を、誰もが大賢者と呼んだ。


 しかしそれは歴史の側面でしかなかった。


 事実だった。けれど、現実とは少し違った。




「……ったく、こんな相手勝てるのかよ」


 それを前にして彼は、大賢者アルフレッドはつぶやいた。自嘲気味に、こんな虚無で埋め尽くされた空間で、混沌が姿を持った世界の終わりを前にして。


 強がりだった。押しつぶされそうな絶望を和らげるため、精一杯の笑えない冗談。それでも彼は表情を直しその呼吸を落ち着かせる。




 いつか誰もがそうしたように、輝く希望に手を伸ばす。天の星の軌跡をなぞり、描く形は五芒星。




「召喚、魔王軍」




 率いるのは悪魔の軍勢。最強最悪の連中だった。総勢五万を超える魔物の群れに、四天王とその頭。


「こいつか? お前がいう世界の終わりって奴は」


 魔王がそう聞けば、大賢者は笑って答える。


「まぁね。今日の所は様子見のつもりだけど……本番とやらはどうなることやら」

「ハッ、随分と弱気じゃねぇか。けれど見ろよ、そう思ってるのはお前だけらしいぞ?」


 彼は振り返る。破壊と殺戮に飢えた悪魔達が上げる雄たけびに、思わず彼は苦笑いする。


「なんとまぁ、皆さん血の気の多い事で」

「お前が少なすぎるんだよ」


 彼は進む、一歩前へ明日に向けて。


 彼らは進む。倒すべき敵に向けて。


「勝つぞ」


 魔王がそう呟けば、彼の心が軽くなる。




 ――語られない彼らの伝説。いつかどこかの最後の闘い。


 死力を尽くした勝負だった。一対五万の、負けるはずの無い戦い。




 それから、600年の月日が流れた。

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