「コンドウ」なんて良くある苗字、縁があるとは思えない

紅真

第1話 今日から二年生

 暖かな春のこぼれみがカーテンの隙間を、洋タンス、床、ベッドを通って、俺の身体を横断している。この光が顔に当たっていたらなら、目も覚めたことだろうに、あいにく俺の意識の半分は空中を漂い続ける。

 今日はなんて良い日なんだ。ゆっくり寝返って、今度は背中を温める。これで、今日が始業式じゃなかったら、最高の一日なのに。

 

 ギシギシときしむ音が伝わってくる。俺の部屋は階段の隣に位置するため、誰かが通ると部屋に響く。このリズムと音は、きっと…。


「起きろバカ兄貴、朝私忙しいんだから自分で起きて来てよ!」

 ドア開けると同時に罵声を浴びせてくれるな妹よ。洋タンスと勉強机、ベッドと小さな本棚しか置けない部屋に妹の声は良く響く。

「お兄ちゃんにバカとはなんだ、お兄ちゃんだって好きでバカやってるじゃないぞ」

 「好きでやってたらバカじゃなくて超バカだわ、この超バカ兄貴」

 捨て台詞のように吐き、右にターンして去る妹。その後に、ゆるふわツインテールと制服のスカートが追いかける。中学生にもなってツインテールで学校行くなんてお兄ちゃん少し心配です。

 

 下に降りると母さんがきびきびと朝飯の支度からお昼の支度をこなしていた。

大輔だいすけはお昼に帰ってくるのよね?結奈ゆいなは今日から部活があるから、お昼作っとくからレンジで温めてね」

「はいはい、了解」

「って、まだ着替えてないじゃない。時間大丈夫なの?」

「大丈夫だよ」

 席について、焼かれた食パンにバターとイチゴジャムを半々に塗る。母さんがベーコンエッグとサラダを三人分、テーブルに置いた。

 上から早足で階段を下りてくる音が聞こえる。その音はリビングには向かわず玄関に向かう。

「結奈、朝ごはんは?」

「いらない」

「お弁当は持った?」

「あっ…」

「ほらよっ。弁当」

先に気づいた俺が、玄関まで弁当を持っていった。

「それと、ほれ、朝ごはん。結奈の好きなハーフ&ハーフにしといてやった」

「あ…ありがとう…もう、行ってきます」

 照れくさそうに言いやがって可愛いやつめ。

「部活頑張れよ」

「そんなことわかってるわよ…バカ兄貴」

 ドアを勢い良く開けて、外に飛び出す。閉まりかけに手を振ったが、妹には無視された。


「もう、結奈ったら朝ごはんいらない言ってよね」

 余ってしまった料理にサランラップをかけながら、残念な顔をする母さん。

「一年生は早めに行って用具の準備とかしないといけないから。この時間に出ないと間に合わないな」

「あーそうだったわね。大輔も早く家を出てたわね」

 俺も中学生の頃、水泳部に所属していた。その頃は朝早くから学校に行ったものだ。俺は得意気に頷いた。


 ゆっくり朝飯を済まして、着替えるために一旦自分の部屋に戻った。白のシャツに学校指定の紺色のブレザーを羽織る。そして、赤のネクタイをタンスにしまい、新品の緑のネクタイを取り出した。

 俺の通う私立遠山学園は、ネクタイの色で学年を区別している。一年生は赤、二年生は緑、三年生は青となる。今日から俺は二年生だ。慣れた手つきでネクタイを閉め、これもまた学校指定の大きく校章のはいったカバンを持つ。

 玄関に向かうと、母さんも仕事に行く瞬間だった。

「あら、緑のネクタイも似合うじゃない」

「そうか? なんか恥ずかしいけど」

「恥ずかしい? 二年生になるんだから立派なことよ。胸を張りなさい」

 そう言うと、胸を軽く押された。元気でいつも明るい母さん、女で一つで俺らを育ててる。いつも笑顔で、生きるパワーをくれる。

 なぜか少し、口元がにやついてしまった。

「私もう行くから、大輔は行く前に鏡見なさいよ。寝癖ひどいわよ」

「あっ」

 後ろの髪の毛跳ねてるな。流石に始業式にこのままはダメだよな。母さんは軽やかに玄関を出て、振り向いてから、口パクで「遅刻するなよ」と言ってきた。

 寝癖髪の毛をいじりながら、苦笑い。急いで洗面台に向かう。

 二年生スタートから先が思いやられる。肩をおとしながら、寝癖直す。母さんの言い付け通り遅刻しないようしないと。

 時計をチラ見にしながらことを進める。学校が始まったんだと実感した。

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「コンドウ」なんて良くある苗字、縁があるとは思えない 紅真 @kurenaimakoto

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