何でも無い様で、何か有る日常

紅真

第1話 夜の残り物

 小学生の頃だった。


 今日の晩御飯はカレーで、喜びながらもご飯もカレーも少なく盛り付ける。

「そんな少なくていいの?」

 母に言われて、私は

「カレーは次の日に食べた方が美味しいから」

 と、自慢げに答えた。カレーは次の日に食べた方がなぜか美味しい。そんなことに気づいた私は、小学生ながら悪知恵を働かせていた。

 その日からはカレーはいつもより多く作られた。


 私の家のカレーは、最初は牛丼として出てくる。次は肉じゃがで、そしてカレーとなって出てくる。余った料理が姿が変わって出てくることに、当時の私は、すごく驚いた。


 どうしてカレーは次の日が美味しいのか、母に訪ねたことがある。母は、

「料理は人のために作ると美味しくなるの、牛丼を作って、それが肉じゃがになって、カレーになる。その度にお母さんは、家族みんなが美味しく食べれるように気持ちを込めて作るの。次の日のカレーは、お母さんが四回目の気持ちを込めて作るから、もっと美味しくなるのよ」

 と、答えた。

 今となっては、私に料理の経験をさせるための口実だとわかるが、その効果は絶大であった。


 それからの私はカレーを作るときは一緒に作った。自分なりに気持ちを込めて作れば美味しくなると思った。そして、自分で作ったカレーは目論見通り美味しかった。


 知恵もついて、実際次の日のカレーが美味しいのは、冷えて味が引き締まるだとか、冷えてから温める時にちょうど味覚が美味しく感じる温度になるとか、知らさせてしまったけれど、あのときのカレーは美味しかった。


 独り暮らしになって、カレーを作っては2日に分けて食べる。それでも余るカレーを見て、今度余ったカレーの活用方法を聞こうと、次の休みに実家へ帰ることを決めた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る