SOCIETY ver.5.1

神島しとう

本編

ver.5.0.0 『SOCIETY ver.5.0』

 2035年、日本全国で『SOCIETY ver.5.0』による超スマート社会が実現しようとしていた。

 科学技術と現実が調和した世界。

 それは、経済発展と社会問題の解決を両立した人間中心の素晴らしい世界だ。

 その一方で、未知の問題が生じている。

 誰かが想像しても、誰もが不可能だと無意識のうちに決めつけて、誰も予測していなかった問題が発生した。

 それは……日本を奈落の底に突き落とす”ウイルス”の存在だった。







「どうした、路地裏でヤケ酒とは」



 細い路地で一人の男性が座り込んで、雑に酒を呷っている。

 缶ビールを持つ手は震え、中の液体をうまく飲めていない。

 口から外れた液体は、服に降り注いでいる。

 黒いコートに身を包んだ人影が言葉をかけると、男は怪しい呂律で語りだした。



「首になったんだよ。AIが、俺を働いていないって判断しやがってさ。ふざけんな! 天下の教師様だぞ、こちとら。何するにしてもAI、AIだ」

「社会が憎いのだな」

「ああ、そうだ! あんたも分かるよな」

「ああ、わかるよ」



 男はその言葉で気分を良くしたのか、笑いながら話を続けた。



「最近は”人間マルウェア”だなんだで、日本は対応に追われているが……このまま、滅茶苦茶になっちまえばいいんだ。いっそ、俺も人間マルウェアに感染して、社会を破壊してやるか。今の俺なら、無敵だ。人殺しも厭わねぇ」

「ほう、人間マルウェアに感染したいのか」

「ああ。へへ、明日で公務員じゃなくなるが、今はまだ公務員だ。社会に貢献しないとな」



 コートの人物はポケットからスマートフォンを取り出し、操作している。

 画面にQRコードが表示されると、それを男に見せつけた。



「なら、これを読み取って、私に力を貸してくれないか。社会に貢献できる」



 男は喜びながらスマホを取り出して、名も知らぬ人物が差し出したQRコードを読み取った。

 そして男は昔話に出てくる鬼のような体型に変化し、世間を騒がす怪物となった。

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