第4話 昔話

 この町には4つの小学校があった。

 しかし、今は3校しかない。


 俺たちが通っていた小学校は町の中でも特に、子供が少ないところだった。

 俺たちが最後の卒業生だ。

 クラスメイトはたったの6人。

 俺と龍二と綾香はここの卒業生だ。

 他の3人は男子1人と女子2人。

 みんな中学に上がる段階で転校していった。

 当時は、子どもが携帯電話なんて持っていなかったから、今どこで何をしているかわからない。

 

 龍二は昔からまったく性格も体型変わってないが、綾香は今とはぜんぜん違っていた。


 今の綾香はとても明るい性格だ。

 友達も多いし、誰とでも分け隔てなく接する。

 更に可愛さも相まってモテるし、女子からもとても人気がある。


 だが、昔は暗い性格でいつもうじうじしていた。

 そのせいで、女子には嫌われていた。

 休み時間はずっと座って放課後はすぐに家に帰っていた。

 そんな綾香に見かねて俺は一度声をかけた。



 ―――「綾香ちゃんっていつも一人だよね。一人でいるの好きなの?」


 急に話しかけたせいか、少しビクッとしてから小さい声で話し始めた。


「別に……す、好きじゃ……ない。綾香といたら、い、いらいらさせちゃうから」


「だから一人でいるの?」


 綾香は小さくうなずいた。


 それを見た焔はニコッと笑い綾香に言う。


「だったら俺らと遊ぼうよ! 一人でいるより絶対楽しいよ!」


「で、でも……」


「いいから行こうぜ!」


 そう言って、綾香の手を取り、多少強引ではあったが、近くの森まで行き、龍二たちと合流して一緒に遊んだ。



 ―――それ以降、俺は綾香と仲良くなった。

 綾香はいつも俺たちの行くところに付いてくるようになり、毎日のように遊んだ。

 森や山を探検したり、秘密基地を作ったり、近くの公園で一日中遊びまわったりしていた。

 綾香の暗い性格は小学校の間に治ることはなかったが、俺たちと遊んでいるときはよく笑顔を見せるようになった。


 遊びの中で最もよくやっていたのは、チャンバラごっこだ。

 森や公園で、自分の好みの木を見つけてその木を剣や槍にみたてて、よく戦っていた。

 龍二は長い木が好きだったな。

 それで遠くから突いてきたり、ぶん回したりしていた。

 せこい性格してるよ。

 

 今は転校してしまった男の子、名前は……確か冬馬とうまだったかな。

 冬馬は二刀流だった。

 ずーっと、ひたすら連打してきて、まったく攻撃させてくれなかったな。


 さすがに綾香は参加しなかったが、いつも楽しそうに見ていた。


 俺はちょっとだけ短くて、振りやすい木の棒を使っていた。

 攻めるよりも、俺は守ったり、攻撃を避けたりする方が好きだった。


 だからか、最初は3人で戦っていたが、最終的には毎回2対1になっていた。

 それでも俺は負けることはあまりなかった。

 

 この時から龍二は毎回言っていたな。

 焔にはすごい「武器」があるって。

 その「武器」がなんなのかは教えてくれなかったが。

 

 ただ、今思えば、龍二が言っていたその「武器」というのは、反応速度のことだろう。

 俺はこの反応速度のおかげで二人の攻撃を同時にさばけていた。

 そして、今回のサッカーの試合でもこの反応速度のおかげでシュートを止めることができたのだと思う。ただ、最近はこの「武器」を使うことなんてめったにないがな。


 更に、龍二が俺のことを評価しているのにはまだ理由がある。


 それは小学4年生の頃に起こったある出来事が原因だ。



 あの出来事が起こったのは、小学4年生の時だった。

 

 俺たちはその日、公園でチャンバラをしていた。

 小学1年生の頃からやっていたから、けっこう様になった動きをするようになってきた。

 その日は夏休みだったから暑く、綾香は近くの屋根付きの休憩所で俺たちが遊んでいるのを見ていた。

 

 そこに他校の小学生がやってきた。

 背は俺たちよりだいぶでかかったから、おそらく6年生だろう。

 人数は3人だ。

 

 俺たちは特に気にすることなく、そのまま遊んでいた。

 だが、他校のやつらは、俺たちの方を見て何かひそひそ話しながらニヤニヤと笑っていた。


 話し終わると、俺たちの方へ近づいてきた。

 そして、そこのリーダー格であろう男が俺たちに話しかけてきた。


「なあ、君たち俺らと君らが今やっている遊びでチーム戦しないか?」


 当然、俺は疑問に思い言い返した。


「チーム戦って何ですか?」


「チーム戦っていうのは簡単に言えば、チームを組んでその木の棒で戦うこと。今ちょうど君らは3人で俺らも3人いるからチームはこれでいいだろ」


「それは良いけど、ルールはあるんですか?」


「ルールは相手の木の棒を叩き落すか、相手に木の棒を手から離れさせる。すると、相手はもうその木を拾って戦うことはできない。そして、手から離れさせる方法は体に直接攻撃を当てればいい。ただし、顔はなしだ。もちろん、君たちはガキじゃないからわかると思うけど、木の棒は当たると痛い。だから、『めちゃくちゃ』本気で殴らないこと。ルールはこれで終わりだ。早くやろうぜ」


 俺たちはこのルールに承諾し、チーム戦を始めた。

 だが、このときまだこの男が説明したルールの違和感に気づいてはいなかった。


 3人とも向かい合った状態でチーム戦はスタートした。

 俺が一番左で、冬馬が真ん中、龍二が一番右だ。

 

 スタートするや否やあちら側はすぐさまこちら側に走ってきた。

 当然俺たちは向かい合ったやつと戦うと思っていた。

 しかし、やつらは急に方向を変え、龍二に向かって3人が棒を振りかざした。

 あまりの恐怖だったんだろう。

 龍二はすぐに木を投げ捨てた。

 

 さすがは上級生だ。

 こんな戦法もあったのか。

 冬馬と2人で3人を相手にするのはきついなあ。

 

 そんなことを思いながら、改めて気を引き締めようとしたとき、わけのわからない光景が目の前に飛び込んできて、思考が停止した。


 3人が龍二を袋叩きにし始めた。

 かなり強い力で。

 

 龍二は地面に突っ伏し、体を丸めていた。

 その光景を俺と冬馬、そして綾香はただ茫然と見ていた。


 そのあとすぐに我に返り、3人に向かって叫んだ。


「何やってんだよお前ら! もう勝負はついてんだろ! 龍二を攻撃する必要ないだろ! もう止めろ!!」


 俺が叫んだあと、リーダー格の男がこっちを向いて、ニヤッと笑い答える。


「はあああ? 何で止めなきゃなんねーんだよ。ルールでは木を離したやつはもう戦えないとは言ったが、木を落としたやつは攻撃しちゃいけねーなんてルールはねーんだよ。それにこの戦いに勝敗なんて初めからないんだよ。そして、お前らはこのルールを承諾したんだから文句言えねーよな」


 言い終わると、大笑いしてまた叩き始めた。


 俺と冬馬も恐怖のあまり龍二を助けることができなかった。

 

 1分ほど経過して、やっと龍二への攻撃を止めた。

 龍二は傷だらけになっていた。


 そして3人は俺たちの方を向き、笑いながら近づいてくる。


「次はどっちにしようかな」


 冬馬はこの恐怖に耐えられず、泣きながら公園の外へ逃げて行った。

 そして、必然的に次のターゲットは俺になった。

 俺は恐怖で足がすくんで、その場から動けなくなっていた。

 俺は目を閉じ、歯を食いしばっていた。


 そして、まさに3人が俺に木の棒を振りかざしたとき、綾香が今まで聞いたことのないような大きな声で叫んだ。


「もう止めて!!!!」


 3人の手が止まった。

 そして、綾香の方に顔を向ける。


「お願いだから、もう止めてください」


 すすり泣くような声だった。

 だが、こいつらは綾香の願いを嘲笑った。


「女の子いたのかよー。女子の方がリアクション良いんだよなー。やっぱこっちで遊ぼうぜ」

「そうだな」

「さっきのガキもリアクション薄くて全然面白くなかったしな」


 そう言うと、綾香の方に3人は走りだそうとした。


 だが、俺はもう限界だった。

 龍二が傷ついた姿見て、綾香が傷つけられる姿を想像して、そしてあいつらがそれを楽しそうにやっている姿を想像して。


 そしたら、もうどうでもよくなった。

 俺の体がどうなろうと。

 あいつらの体がどうなろうと。

 もうどうでも……


 そのあとの記憶はない。

 気が付いたら、あの3人は倒れていた。

 綾香は無事で、龍二も起き上がっていた。

 

 その後、冬馬が先生を連れてきて、龍二たちを病院に連れて行った。

 後から知ったが、あの3人組は有名ないじめっ子だったそうだ。

 そいつらが通っている小学校ではよく暴力沙汰を起こしていたらしい。

 今、何をしているかは知らないし、顔もよく覚えてない。


 この出来事がきっかけで、もう木の棒で遊ぶことは禁止された。


 俺は記憶がなかったが、龍二と綾香は俺があいつらを倒すところをみていたらしく、どうやって倒したのか聞いたら、なんと3人の攻撃を同時にさばきながら、一人ずつ確実に倒していったみたいだ。

 速すぎて動きがあんまりわからなかったらしい。


 この出来事のせいで、龍二と綾香は俺のことを過大評価している。

 昔の俺はあいつらにとって英雄みたいなもんだったが、今の俺は……



 はい、昔話終わり。


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