十.一日間マロック一周
その日の午後、俺はミーナの働く工房を見せてもらった。
獣脂の臭いが立ち込める工房の隅に、ミーナが任されたスペースがあり、ジーナの神装鳥(キュリア、と名付けているらしい)と俺の神装馬スタンが置かれていた。
キュリアには目立った損傷が無かったようだが、スタンは体の前半分が潰されていた。普通なら廃棄する状態だろう。
だけどミーナは、目の色を変えて作業に取り組んでいた。俺のスタンは、既にかなり形が変わっている。
巨獣の殻、動物の腱や木で作られた骨、鉄製の関節などなどが次々に組み込まれていく。そして呪文が唱えられ、疑似生命の一部になっていく。
多分この中には、俺の命を救ってくれた羊の腱も使われているのだろう。なんか厳粛な気持ちになる。
「ごめんな、臭いやろ」
ミーナが手袋の甲で顔をこすりながら笑った。俺は首を振る。
「慣れてないだけだ。別に嫌じゃない」
ミーナが一瞬固まって、にへらとした。
「アルス、いい子やー」
「子供じゃねーよ!」
ツッコムのは礼儀だ。
ミーナの計画によると、神装鳥と神装馬(ただし二本足になった)を繋げて、二人で操る疑似人型を作るという事だ。なぜそんな事をするかというと、人型の神装具は絶対の禁忌だとされているからだ。
この世界は、五回の滅亡と再生を経ていた。五度目の滅亡は、人の姿と意思を持った巨人を作った文明が、巨人の暴走で焼き尽くされてしまったのだという。
そのため、この六度目の世界では、人型を作る事は禁じられ、乗る神装機は、鳥型と、馬型だけが許されていた。
ところが、空賊はその禁忌を破る人型を作っていたのだ。
人型が振り回す棍棒に神装馬に乗った騎士では歯が立たない。神装具をつけた戦士も同じだ。神装鳥も、人が扱える武器では人型の鎧を貫けないし、その間合いに入ったら逃げられない。
前回の襲撃では、全ての警備が撃退され、市に集まった荷が空賊に略奪されてしまったのだった。
この世界にはもう存在しない筈の人型神装機、それを空賊がどうやって作ったかは分からない。だが禁忌を破らず、それに対抗するには、確かに今はこれしか無い、かもしれない。
「どのくらいかかりそうだ?」
「一応、三日」
「早いな!」
「ずっと頭の中で手順を組み立てとったからね」
腰に手を当てるミーナが頼もしい。
「ま、そういう訳でうちは忙しいさかい、ジーナがアルス、やなかったエイチを案内したってや」
「うーん、仕方なか。いろいろ見せちゃるごて、迷子になるんやなかと?」
バカにするな! まあ昨日は迷ったけどさ。
それから俺は、島を一通り案内してもらった。この島が細長い事は下から見上げた時に分かっていたが、後ろ半分に山があり神殿が集中。島を構成する浮遊岩(飛行石じゃない)を制御する聖所は山に穿たれた隧道の奥にある。
前半分の市街地に職人の工房や演芸者の舞台、もちろん神職の住居などなどがある。
見物がてら、双子の生い立ちを聞いた。
二人は、双子は不吉だと嫌う国で生まれ、別々に他国に売られたらしい。だから姓が違うのか。
ひどい話だが、俺たちの世界でも昔はそういうのがあったって読んだ事がある。
やがてジーナは浮遊ゴーレム乗りの適性(マナ力が強い)を見出され、マロック島に。ミーナは神装技師に弟子入り志願し、やはりこの島に。こちらの適性はカナ力というらしい。
ん?
マナと……まあいいや。聞かなかった事にしよう。
ともあれ、神装鳥乗りと、そのメンテをする技師として二人は出会い、互いに似ていると感じた所から色々調べて、双子だと分かったという事だ。
「なんか、良かったなあ」
俺がしみじみすると、ジーナもうつむいて、
「うん」
とだけ答えた。
その一言に、言い尽くせない感情が籠っていて、俺も心が温かくなった。
最後に着いたのは、衛士隊の寮。これから俺はここに住むことになる。
「おう!」
入り口では、デヘイヤ隊長が腕を組んで立っていた。
「今日一日は物見遊山を許したが、明日からは鍛えてやっでな! 覚悟せー!」
俺、やっぱり地上に帰ろうかな。
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