四.チートは無いようです
「何を騒いでおるか」
緑色の長い衣(インドのサリーとか、古代ローマ人の来てたやつみたいな)を身にまとった中高年くらいの女性が入ってきた。
「「ナドレ様」」
双子が、ここは綺麗に声を揃えて頭を下げる。二人の名字が違う事は、おいおい聞かせて貰おう。
「あの、アルスさんが目を覚ましたので」
「私たちが双子だって事とか話しました」
「一昨日まで死に瀕しておった
ナドレ様というらしい女性は、切れ長の目を更に細めた。怒った美人は迫力がある。あ、この人、今はほうれい線とかがやや目立つおばさんだけど、美人のおばさんだ。
「え?」「あの」
焦る二人。俺は助け舟を出そうと声を絞り出した。
「いや、俺、結構元気だし。俺が訊いたんで、二人を怒らないでやってくれ」
「くれ?」
その人に睨まれた。
「……ください。お願いします」
「まあ良かろう」
ナドレ様が横にしゃがみ、診察を始めた。
目を覗き込んだり口を開けさせたり脈に触れたり、そういう事はあまり変わらないと思ったら、助手に持ってこさせた、すり潰した薬草を口に含ませた(苦いし、飲み込んでしばらくしたら体がふわふわしてきた)上に、何やら呪文を唱え、印を切る。
意味は全く分からないが、それを聞いている内に、体の痛んでいた辺りが暖かくなり、楽になっていった。
「また治りが早まったようであるな。二日程休まば、出歩けるであろう」
「ありがとうございます」「ありがとう」「おおきに」
俺と双子の声が揃……わなかった。
俺はその後食事を摂った。ナンみたいなパン、豆と肉のスープ。地味だなと思ったし、多分味付けは塩だけなんだけど、死ぬほど旨かった!
ひと眠りしたら、赤い日光が窓から差していた。壁に当たっていた光がだんだん下りてきたので、朝だと分かった。
姉妹はいなくなっていた。
実はちょっとだけ、目が覚めたら東京のアパートに戻ってるんじゃないか、なんて思っていた。だってこんな事、ちょっと信じられないだろ。
横になってから寝るまで、思い出そうとしていた。(たぶん)死んだ後、目を覚ますまでの間に何があったのか。
これが異世界転生って奴なら、美人な女神から色々説明されたりして無いか。チートスキルを貰ってないか。
……思い出せない。
残念だけど、パラメータ表示とかコントロールパネルとか出ないようだし、自分がどんな能力を持ってるのかも分からない。まあ、元の世界でも大した能力なかったけどな。
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