恋とは突然おちるもの

@manakiria

第1話 はじまり

2年生になった海(うみ)は退屈そうに体育館の床に座っていた。

全校生徒の前で校長先生が挨拶をしている

校長先生の話というと長いものと相場が決まっているが海の学校の校長はそれを嫌ってか、あまり長話をしない方だった。


ぼーっとしている間に校長の話が終わり次に新しく赴任した先生の紹介があり

一人ひとり、関連のある授業と名前を告げていく

団塊の世代の引退からか比較的若い先生が多かった

海ははじめから先生たちの話を聞く素振りを見せない

関係があるのならまた教室で会うだろうし、あんなに小さく見える壇上の上の人の顔を見るのは面倒だった。


少し前を見るとソフトテニス部の女の子たちが何やら騒いでいる、どうやら新任の先生がかっこいいとか若いとか色めきだった話題のようで海はそっと目線を自分の足元に落とした


海は1年生の頃ソフトテニス部に入っていたのだ。

たった半年で辞めてしまい、部の友達とはもう友達とは呼べない仲になっていた。

今は美術部に所属しているが、幽霊部員のため新しい環境での友達はできるはずもなかった。


じっと訳もなく足元を見つめているとチラホラと拍手が湧き上がり先生たちの挨拶が終わったのだと知る

その後も賞の発表や知らないPTAのおじさんの挨拶を見送るとようやく教室に戻るように指示があった。

クラスの列を少しばかり乱しながら海達は自分たちの教室へと戻っていった。


教室への帰り道、海は小柄な女の子に小突かれ少しよろめく

衝撃の方を振り向くと日野 翠(ひのみどり)がニヤニヤしながら隣を歩いていた。


「なに?翠」

「それ、いつまでたっても似合わないねぇ」


日野が笑いながら指を指しているのは海の制服だった。


「男勝りな海にスカート!めっちゃ似合わない」

「…似合わないって言われても、制服だし」

「えー、似合わないからー。学ランにしたら??短ラン?長ラン??」


楽しそうにテンションを上げていく日野だったが

海の外見はそんなにもスカートが似合わないような女の子ではなかった

背も160センチあるかないかだし、声だって低いわけじゃない。

髪型はショートカットでボーイッシュと言えなくもなかったが、毛先を遊ばせているわけではないからかショートボブになりつつあった。


そんな海に、なぜ日野は 似合わない! を連呼するのか

それは小中と持ち上がりの中で経てきたイメージの問題だった。

小学生の海はとても活発で、しょっちゅう男の子と喧嘩をしては泣かせるようなガキ大将だった。

成長するにしたがって、喧嘩をすることもなくなってきたものの

男勝りなキャラクターを手放すことだけができず、私服登校ではほとんどパンツスタイルで過ごしてきたのだった。


そんな海がスカートを履いている

自分たちと同じ女物を着ている


そのことが日野や同学年の皆にとってとても違和感だったのだ。

その為か、こうしたからかいは日常茶飯事だったし、何かの行事でスカートを履けば必ずと言っていいほど誰かに 変だ 似合わない 女装だ

と言われていた。

そんな日常に、海としても履かなくていい時間はジャージで過ごすなどの対策はしていたが

しかし制服を着る行事は学校生活ではありふれていた。


その度に海は自分の存在を否定されている気持ちになり、友達にも上手く対応できないときもあった。

しかし、そのイメージを作り上げてしまったのはガキ大将だった自分の落ち度で

頃合いを見てシフトチェンジが出来なかった自業自得だと必死に作り笑いを浮かべ耐えていたのだ


(…笑えば終わる、笑っていればこの場は終わる)


海はまた、苦笑いを浮かべながら心を1つ砕くのだった。

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