ここ、スマイルマイルで決済できますか?

ちびまるフォイ

感情表現が良くできたそれっぽいもの

「じゃーーん、スマイルマイルはじめちゃった」


友達は満面の笑みでカードを見せつけた。


「……なにそれ?」


「お前知らないのかよぉ。今、ごく限られた若い人の間で

 静かなブームになっているスマイルマイルだぜ?」


「それってブームと言えるのか?」


「笑えよ~~。今、笑うところだぞ?」


「そのうすら寒い笑顔を止めてくれたら笑いやすいんだけど」


「ばーか。人の笑顔は他人を幸せにするんだ。

 笑顔を振りまけば俺にもスマイルが貯まる。WINWINじゃないか」


「スマイル、ねぇ」


興味が出たので調べ、俺もスマイルマイルを始めた。

笑顔をすると「ス"マイル"」が貯まるらしい。


「というわけで、俺も始めてみたよ。にっこーー!」


「たか君、それで最近よく笑うようになったんだね」


「スマイル貯めたいし」

「前より雰囲気やわらかくなったよ」


最初はスマイルを貯めるためだけに始めた笑顔活動だが、

あながち悪いものでもなく周囲の人からは好印象。


近所の人からも「好青年」として認知されているだろう。たぶん。


「ここ数日笑顔ばっかりで顔は疲れちゃったけど、

 スマイルだいぶ貯まったからなにかおごってあげるよ」


「ほんと? それじゃ、美味しいもの食べたいな」


「おっけーー。愛しの彼女のためにならいくらでも!」


笑顔を振りまくだけで周りを幸せにする。

そして自分に返ってくる「スマイル」で自分もハッピー。


こんなに良いことはない。


「今日はおごってくれてありがとうね」


「いいのいいの。ほら笑って」


「こう?」


「そうそう。スマイルマイルは自分の笑顔もだけど

 人の笑顔でも"スマイル"が貯まるんだ」


「ちょっと。それじゃ今私の笑顔を換金したってこと~~?」


「あははは。それは……まあ」


スマイルを貯める生活を始めてからさらに時間がたった。


最初こそぎこちなかった笑顔も自然になっていって、

自然な笑顔が周りの人からも笑顔を引き出せると知った。


「お前ってホントいつもにこにこしてるよな」

「人生楽しんでそうな顔してる」

「すっごいポジティブな第一印象だった」


「笑顔だからね!!」


笑顔に引っ張られるようにして自分の内面にも変化が出てきた。

いかに笑顔であり続けられるかを考えることで思考はポジティブに。

悪口や陰口は自然と消えていった。


「もう笑顔マスターだ!」


笑顔の検定試験を受けて合格したことでますます俺は自信をつけた。

スマイルもかんたんに貯められるので幸せだ。


「ねぇ、ちょっと……あれ」


スマイルを使って彼女との買い物デートのとき、彼女は地面を指差した。

地面には巣から落ちてしまって命を落としたヒナがいた。


「かわいそう……埋めてあげよう」

「そうだね」


近くの地面にヒナを埋めると、彼女の顔はひきつっていた。


「どうして……笑ってるの?」

「え?」


「こんなに悲しいことなのに、なんで笑顔なの?」


「それは、このヒナだって来世で良いことありますようにって願うから。

 悲しいことだけど、ポジティブに考えなくっちゃね」


「本気で言ってる……?」


「本気に決まってるだろう? 俺、おかしなこと言ってる?

 巣から落ちたことである意味新しい世界へ飛び出すことができたんだ。

 それにこうして埋めたことで俺たちもきっと神様から好印象だよ。

 幸せじゃないか。ハッピーじゃないか。ほら笑って?」


彼女の顔はみるみるこわばっていく。


「おかしいよ……たか君、なんか怖い……」


「おかしい? ああ、でも君からそう言われたことは前向きに受け止めなくちゃね。

 自分の気づかなかった部分がしれてハッピーだ。

 これを改善して俺はもっと君に見合うだけの素敵な人になれるよ。ありがとう!!」


「ちょっ……来ないで!! いや!!」


「どうしたんだよ。俺のなにが悪いんだい?

 こんなに笑顔じゃないか。そんな顔をしないでおくれよ。笑って?」


彼女はサイコパスな人殺しから逃げるかのように去ってしまった。

笑顔は板についていたのに、怖がらせる顔をしたつもりはなかった。


「笑顔じゃ……いけないのか……?」


俺はニコニコ笑いながら悩んだ。もうこの顔以外はできなくなっていた。


 ・

 ・

 ・


その後、俺は神妙な面持ちで彼女の前にまたやってきた。


「この間はごめん……怖かったよね。謝ろうと思ってきたんだ」


「……うん」


「俺、笑顔になりすぎたせいで感情が笑いだけになってしまってた。

 それって感情がないのと一緒だと気づいたんだ」


「わかってくれたの?」


「ああ、この顔を見てくれよ。君から嫌われて今はすごく悲しいんだ。

 感情を取り戻すのは大変だったけど、取り戻せたんだ」


「たか君!」


よりが戻ったのを確かめるようにぎゅっと抱きしめた。


「ずっと笑顔で怖かった。でももう感情が戻ったんだね」


「ああ」


「笑顔に慣れていたから大変だったでしょう?」


「そんなことないよ」


俺は笑顔で答えた。





「スマイルマイルで、悲しい顔や怒った顔も購入できるからね。ほら自然でしょう?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ここ、スマイルマイルで決済できますか? ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ