獄炎の王

ナマケモノ

一章 獄炎の化身

プロローグ

心地よい風が野原を駆け巡る。

空には風を切る鳥に太陽と思わされるほどの輝きで月は神々しかった。それと食べてしまえば一瞬で溶けてしまいそうな綿あめのような雲が風に沿って浮遊している。

途中風の通り道にさえぎる存在がここに。

か弱き少女が地に膝をついて手を後頭部で髪を握って死を悟っている者と少女の目の前で顔を殴りつぶされ腹にはわずかな膨らみのあるにもかかわらず臍あたりから容赦なく絶望している少女の前で騎士風のゴブリンが一突きし二つの命をいとも容易く奪い取った。

そのとたん少女の目から頬に大粒の涙をこぼした。

目に血走ったゴブリンは少女のほうに睨んだ表情で向いた。目が月に照らされ光っているようにも思わされるほど赤い光で輝いていた。より少女に恐怖を与えるほどに。

二人の命を一突きしたロングソードを腹から引き抜き、鎧の金属音を鳴らしながら剣を振り上げた。大きな声で少女は絶叫した。喉から出血しそうなくらい、これほどのない声で叫んだ。その一瞬ゴブリンは同情も血も涙もなく雄たけびを発ながら勢いよく剣を振り下ろす。

幸運にゴブリンは剣の勢いに体が耐え切れずバランスを崩し転倒した。あと数センチずれていなければ剣が肩から切り込むところだった。

少女は数秒何が起きたか理解できていなかった。

理解したときには叫びながら草道から野原を一生懸命走り、殺された母親を後にした。

ゴブリンはバランスをとり戻したらしいのか背後から草を踏む自分とは違う音が徐々に近づいてくる。

「はあ・はあ・・誰か助けて!・・・お母さん・・」

乾ききったと思っていた涙がまた視界を包み少女には世界が潤んで歪んだように見えた。

そして涙を拭いていると目の前の木に正面からぶつかった。目の奥に一瞬火花が散った。

腰に力が入らなくなった。

そのまま木に腰を掛けてばたりと座り込んだ。

そしてゴブリンが少女に追いつき再び切りかかろうと剣を振り上げ、少女の絶叫をも切り分けれるほどの勢いで今度は横から切りかかろうと振り下ろしてきた。

恐怖のあまり目を力いっぱいつぶった。

相馬島に浸っている少女に剣がなぜか手から離して落とした時の金属音がした。

そろりと目を開く。そこにはゴブリンの頭を一握りしている手から炎が噴き出ている頭に漆黒に染まる角の生えた180はある身長の男とフルプレートの見たこともない金属に覆われた何者かがその男の背後に平然と立っていた。

少女の目には不敬ながら魔の頂点に立つ魔王に見えた。

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