第54話:すっぽんぽんになっちゃうよー!
琵琶女の体育館とグラウンドという予想外な展開を見せてきた第八階層。
おかげでついに初めてのボス討伐ポイント取得の権利を得たのだけれど、まさかそのボスが……。
「すっぽんぽんにして退場させようと考えてくるとは、考えてもいなかったでござるな」
忍び服のあちらこちらを火の粉で燃やされたつむじちゃんが「困ったでござるな」と顔を顰めた。
ちなみに今は作戦会議中ということで、会話は拾わないようにしてもらっている。
「おまけに衣装チェンジなんて魔法、私たちは使ってこなかったしね」
彩先輩もつむじちゃんと同様にボロボロだ。おへそが見えちゃってる。
「このままでは~♪ まともに戦えないですねぇ~♪」
そして文香先輩はと言うと……。
「どうしましょうっかねー♪」
さっきまで危うくおっぱいぽろりしそうだったものの、歌魔法による衣装チェンジで今はアイドルみたいな恰好をしていた。
『あー、テレビの前の皆さん、「さっきまでおっぱいぽろりしそうだったじゃねぇか!」と抗議の電話はしないでくださーい。放課後冒険部全国大会は健全なスポーツ大会なので、そういうのは期待しないでくださいねー』
小春ちゃんの実況に、これまた焦げ跡も痛々しいスーツ姿の友梨佳先輩が「そうだよ、文香君。ここは視聴者のこともちょっとは考えるべきだったんじゃないかとボクも思うよ」とがっくりうなだれていた。
「さて、これからどうしましょうか?」
ストーンウォールを曲げて作った屋根から頭をのぞかせる。
上を見るとフェニックスが優雅に空を舞っていた。
「火の粉でこれだと、体当たりをまともに食らったらそれだけでアウトっぽいね」
「となるとぉ、距離を取って戦うしかないねぇ。でもそれはぁ」
「あい。今はどう戦うかよりも、どうして千里殿の風魔法で倒せなかったのかを考える方が先でござる」
フェニックスが火属性なのは間違いない。
だけど、苦手属性の風魔法をまともに食らわせたのに平気……どころか、むしろパワーアップしているように見えた。
これは一体どういうことなんだろう?
「うーん、やっぱり名前通り、死んでもすぐに蘇ってくるタイプのモンスターじゃないのかな? ちょこ君はどう思う?」
「……ひとつだけ、思い当たる節があるのです」
おおっ、さすが!
「そしてその仮定が正しかった場合の作戦もひとつ……。ただし、かなりリスキーな賭けなのですよ。どうするですか?」
ちょこちゃんが珍しく私たちの顔色をうかがってくる。
どうやらあまり自信がないみたい。
でも。
「よし、それでいこうよ」
「いいのですか、千里!? まだ作戦の内容も話してないですよ?」
「いいんだよ。だってこのチームの参謀はちょこちゃんだもん。ちょこちゃんの立てた作戦を信じるよ、私!」
それにちょこちゃんでさえ一つしか思いつかないのなら、私たちがいくら考えたところで時間の無駄だもんね。
「分かったのです。作戦の要である千里がその気なら仕方ないのです。大丈夫、もし千里がすっぽんぽんにされても、その時はちゃんと小春の謎の光がカバーするはずですから」
「えっ!?」
「それにその時はみんなもすっぽんぽんになれば、千里だけ恥ずかしい目に合わずにすみますですし」
「ちょ、ちょっと待って! 失敗したらすっぽんぽんなんて、そんなの聞いてないよ!?」
「では詳しく作戦内容を話すですよ」
「ちょこちゃん、私の話を聞いてぇぇぇ」
私の嘆願も空しく、ちょこちゃんが仮説と作戦を話し始める。
それはうん、確かに一か八かの作戦だった。
「では行くですよ! 文香先輩、スピードソング!」
意を決してストーンウォールの屋根から飛び出した私たち。
文香先輩の軽快なラップが流れ始めると、動きが随分と軽くなった。
「まずは火の粉を使えないようにしてやるですよ。千里、ストーンウォールマキシマム!」
気合を入れて杖を地面に押し付ける。
ゴゴゴゴゴと地響きとともに、地面が一斉に盛り上がっていく。
ストーンウォールマキシマムとは万女のストームドラゴン戦で見せた地面の上昇を、その名の通り、フロア全体の最大規模で行う魔法だ。
かなり魔力は使うものの、空を飛ぶフェニックスとの距離をジャンプして手を伸ばせば届くほどまで近づかせるつもり。
これなら上空から火の粉を振り落とすなんて悠長なことも出来ないはずだ。
「さぁ、ここからはやるかやられるかのサドンデスなのですよ。みんな、フェニックスに的を絞らせないよう散開するです!」
地面の上昇が緩くなるのを待ってから、みんなが一斉に散らばった。
いつもは前衛と後衛に分かれるのだけれど、今回はそういう分け方はしない。
ただ、それでも文香先輩やちょこちゃんが狙われたら危ないので、ふたりと守備が得意な友梨佳先輩の距離は近くなる。
だから孤立気味なのは彩先輩と、つむじちゃん、そしていまだストーンウォールマキシマムを使用中の私だ。
『琵琶女、お得意の地面盛り上がり作戦で来ましたー! でも、大丈夫なんですか、これー!? なんか魔法使いの相田さんが一人になってますけどー!?』
戸惑い気味に実況する小春ちゃんの気持ちはよく分かる。
なんせ魔法使いは魔力こそ大きいけれど、その防御力は紙そのもの。一度攻撃を受ければ、奪われる魔力も半端ない。
だから。
『あー、だから言わんこっちゃないー! フェニックスが物凄いスピードで相田さんに襲い掛かるぅぅぅ!』
フェニックスが私に襲い掛かるのは当たり前だった。
自由に動き回れる空が狭くなっても、それでも翼を奪われたわけではない。炎を纏ったフェニックスが超低空飛行で、私目がけて体当たりを仕掛けてくる。
すかさずこちらも杖を地面から持ち上げて迎撃態勢へ移行。
攻撃して撃ち落とすか、あるいは防御して攻撃を耐え凌ぐか……。
『琵琶女相田選手、襲い掛かるフェニックスに対して防御魔法を発動! でも、これは!?』
先ほど以上に小春ちゃんが戸惑っているのが手に取るように分かった。
だって私が目の前に展開したのは、まるでシャボン玉のように丸い水魔法のバリアだったからだ。
火属性は風に弱いけど、水には強い。
火属性のフェニックスには一見無駄な抵抗のように思える。
でも、作戦会議でちょこちゃんはこう言ったんだ。
「ちょこ、前から疑問に思ってたのですよ。普通のゲームの場合、火属性に強いのは風じゃなくて、水なのです。それがどうして異世界ダンジョンでは逆なんだろうーって」
だから火属性のくせに風魔法が効かなかった今、フェニックスに対抗出来るのは水魔法、のはず!
ちょこちゃんの言葉を信じ、私は逃げ出したいのを我慢して目の前のシャボン玉に自分の身を託す。
どうか、どうか上手く行ってください! 上手く行かないと私、全国放送ですっぽんぽんになっちゃうよー!
クォォォォオオオオオオオオオンンンッ!
フェニックスが吠えた。
水魔法のバリアに怯む様子なんかこれっぽっちもない。
むしろこっちを見下すような目つきで勢いよく、シャボン玉へ、そしてその先に怯えて立ち尽くす私目がけて突っ込んでくる!
「かかったのです! つむじ、彩先輩、後は任せたですよっ!」
ちょこちゃんの指示が飛ぶと同時に、シャボン玉へ突っ込んだフェニックスの身体から炎が消え去った。
「やっぱり! 炎属性の弱点が風なのはこういう意味だったですかっ!」
その様子にちょこちゃんが興奮して声を張り上げる。
そう、さっきのちょこちゃんの話には続きがあったんだ。
「だから考えたのです。もしかしたら炎に効くのは本当は風なんじゃなくて、空気なんじゃないかって」
つまり風そのものをぶつけるのではなく、風魔法の根源たる空気そのものを操ればいいのでは、というのがちょこちゃんの仮定だった。
だから私はシャボン玉を水魔法で作りつつ、その中を風魔法で真空状態にしたんだ。
小さな炎なら風で消せるけど、大きな炎の前ではむしろその勢いを強くする。だけど、酸素がなければ炎は燃えない。風が炎に強いっていうのは、まさにそういう理屈だったんだ!
クォォォォオオオオオオオオオンンンッ!
シャボン玉の中でフェニックスが哭いた(真空状態なのに音が何故出るかって? 異世界ダンジョンでは出るんだよ!)。
このシャボン玉バリアもちょこちゃんの指示で、外から再度衝撃を与えない限り、中にモンスターを閉じ込められる仕様にしてある。
とはいえ、その時間はわずか十秒。
それを超えるとシャボン玉は自然と割れ、フェニックスはやがて再び炎を身に纏ってしまうだろう。
「でやああああああああっっっ!」
そこへ文香先輩のスピードソングで機動力を上げた彩先輩が駆けつけ、ジャンプしてシャボン玉の中のフェニックスへと剣を振り下ろした。
ぱちんと音がしてバリアが割れ、彩先輩の剣がフェニックスの胴体へと突き刺さる。
「御免!」
さらに風属性のつむじちゃんが、両手に握りしめたクナイを交差させる。
クォォォォオオオオオオオオオンンンッ!
かくしてさすがのフェニックスと言えども琵琶女放課後冒険部二大エースの攻撃を同時に食らっては、灰になる運命しか待ってはいなかった。
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