第80話 結局は千夏から。
俺が千夏の望みを断れないそんな気持ちになっていても「はい、いいよ」と言えるほどはっきりとした意思を持てるわけもないわけで、なかなか返事できない俺を見て
「もう、蒼汰くんは」
とそう言って千夏は膝枕をしたまま俺の顔めがけて顔を近づけてきた。そして合わさる唇と唇。短い時間だったけれど、千夏は俺にキスをしてきたのだった。
またまたやられた俺。思考が止まったようなそんな時間は千夏の言葉で終りを迎える。
「蒼汰くんはほんとにもう。私からしたいって言ってるんだから素直に受け取ってくれたら良いのに。けど、私のことも美樹のことも考えてくれているのはわかっているから。ありがとう」
そうすっきり顔で言う千夏の笑顔はとてもとても眩しかった。
「結局私から強引にしちゃったね。けどね。今私の胸ドキドキしてる。そのせいか蒼汰くんが愛おしくてたまらないんだよ。ははは、これが好きという気持ちなんだなあってよく理解できる。理解できたよ」
よかったのか、悪かったのかははっきり言って俺にはよくわからない。それでも、千夏が喜んでくれているのをみてしまうともうなにも言葉を発することはできなかった。
それから膝枕は終えふたり並んで座り静かに時を過ごしていたが、次第に肌寒くなってきたように感じ思わず俺は震えてしまう。それを見た千夏は
「寒くなってきたね。そろそろ帰ろうか。それと誰かにバレたらいけないからここで別れようね」
俺のことを心配してかデートの終わりを提案してくれた。ここで別れないとバレでもしたら大変なことになるということも付け加えて。
「そうだね。そろそろ帰ろうか。俺もだけど千夏も風邪引くと困るしね」
そう言って千夏の顔を見ようと振り向こうとしたところに、再度千夏は俺に寄りキスをしてきた。
「今日最後のキス、別れる前にね。美樹は3回って聞いてたけど、私はとりあえず2回で満足。そんなに驚いた顔しないでよ。私もできるところは積極的になるんだからさ」
そう言って笑う千夏。どちらかというと抑えるタイプの千夏だったはずなんだけどと俺は思ったが……俺も真剣に受け止めないとなと千夏に向き
「千夏の気持ち伝わったから……ありがとう。ほんとこんな俺でごめんな」
俺はそう言って無理矢理にでも笑顔を作り千夏に微笑むのだった。そんな俺を見て千夏は申し訳無さそうな顔を一瞬したように見えたが
「蒼汰くんもそろそろ覚悟しないとかな? そうしないとこれから大変だよ? 今まで美樹の攻撃ばかりだったけどこれからは私もするんだからね」
とそう言った後
「寂しいから先に私行くね。また学校で」
千夏は俺に手を振って先に立ち去っていったのだった。
ほんと俺何しているのやら……だな。千夏に言われた覚悟。全然できていなかったと言うことなんだろうな。ふたりにとって。俺にとって。
難しすぎるぞ、この問題。
わかっていたはずなんだけどなあなんて考えながら俺は立ち上がりひとり帰り始めたのだった。
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