第18話 中庭でお弁当。



 昼休みがとうとうやって来た。俺は、騒ぎになる前にと弁当を持ち廊下へと出ようとした。圭佑がチラッと俺のことを見ていたが「気にするな」と言うように手を上げて廊下へと出ていく。

 美樹先輩と遠藤先輩がやって来ると、最近出没するようになったせいか「あっ今日も来た! 」「やっぱり綺麗ですね」なんて声も聞かれ注目を浴びていた。


「蒼汰さんおまたせしました」


 ニコニコと笑顔を浮かべ美樹先輩は駆け寄ってくる。その様子を遠藤先輩はすこし呆れた顔で眺めていた。


「いえいえ、全然待ってませんから。それよりどこで食べますか? 」


 俺は食事を取る場所を考えていなかったので聞いてみる。


「中庭なんて良いんじゃないかな? 」


 遠藤先輩は中庭を勧めてきた。


「そうですね。天気も良いし気持ちいいと思います」


 幸せそうに言う美樹先輩は可愛らしかった。


 今まで1年生の階へとやって来ても誰とも会わず何をしているかわからない美樹先輩たちだったが、今日はいつもと違い俺と待ち合わせをしていたことで周囲は驚きの態度を示していた。

 「誰だ? あいつ? 」「え? なんで? 」「先輩笑顔が可愛すぎ」なんて様々な言葉が飛び交っている。ただ、今までのように人だかりができるということはなかった。遠くから見ているという感じ。多分、ふたりとともによくわからない俺がいるからかもしれない。


 そして、ふたりとともに中庭へとむかっていくも、一緒に歩くだけで周囲の注目を浴びていることに……ふたりともいつもこんな感じなんだと俺は大変だなとしみじみ思った。とりあえず、周囲の視線は無視をして足早に中庭に向かっていった。




 中庭に来ても窓からや周囲あちこちから視線がくるがもう気にしてもしょうがない。中庭の芝生に3人腰を下ろし、弁当を開く。


「蒼汰さんもお弁当なんですね」


 美樹先輩から声がかかる。


「弁当じゃないとお金かかりますからね。うちは親父とふたりきりなので俺作成弁当ですね」


「ん? 弁当は山口くんが自分で作っているのか? すごいな」


 遠藤先輩は驚いているようだ。


「蒼汰さんすごいですね。……食べてみたいです」


 美樹先輩は味見がしたいようだ。男飯だからそんな美味しいものではないんだけどなあなんて思ってしまうが。


「摘んでみていいですよ? 味の保証はしませんが」


 弁当を差し出し、美樹先輩に弁当を差し出した。


「でしたら、この唐揚げを頂きますね」


 そう言って唐揚げをひとつ箸で取り口へと運ぶ。


 口が小さいので、一口では無理なようで一生懸命かじって食べていた。その様子がリスのようで可愛いらしい。

 

 そんなすこしイベントじみたことをしながら一緒に昼食をとっていった。


「えっと気になってるんですが、俺、前にも言いましたが女性と一緒に過ごすってことまったくなかったのでこういうのが新鮮ではあるんですが、俺と一緒に居て楽しいですか? 会話もふたり任せの会話になってる気がするんですけど。俺っていてもいなくても変わらないんじゃって思ってしまうんですが」


 昼食を取りながらふたりに尋ねてみる。


「私は楽しいですよ。蒼汰くんのことで知らないことをたくさん聞けて。もっと話したいと思ってます」


 美樹先輩はそう言ってくれるけれど、遠藤先輩は付添いのようなものだよなあと申し訳なく思ってしまう。


「私も楽しいよ。こうやって美樹以外と過ごす時間は貴重でね。どういうわけか私と美樹に人が近くには寄ってこないんだよ。声をかけられることもあまりなくてね。遠くからの視線はたくさんもらうんだが」


 遠藤先輩はそう言って、すこし苦笑いをこぼす。


「美人ふたり揃っていると声がかけづらいんでしょうね。俺もきっかけがなかったら多分そうでしょうし」


 思わず無意識的な言葉が出てしまい、俺はこんなキャラじゃないと失敗したかと思ったが


「目の前でそういう事言われると流石に照れてしまうな」


「蒼汰くん……ありがとうございます」


 とふたりは俺に言葉を返し顔を赤くしてしまった。そんな様子を見て、ふたりからはとりあえず悪い印象を受けて無いようで少し安心した俺だった。




 まあ、出たものはしょうがないよね。本音だったんだから。でも、言った後俺自身が顔が沸騰しそうなほど恥ずかしい言葉だったわけだけれど。

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