第474話気晴らし小旅行は、心労の原因に

「具体的には」

と、麗は麻友に聞く。


麻友は、顔を赤らめる。

「あの・・・お邪魔になるかなあと不安で・・・」

麗には意味不明なので、麻友の次の言葉を待つ。


麻友は、赤い顔のまま。

「あの・・・大旦那様からお聞きして、明日は奈良とか」

麗は、「その予定です」と地味に返事。


麻友は麗の手を、強く握る。

「あの・・・うちも・・・ご一緒・・・」

麗は苦笑い。

「それで悩んでいたの?」

「別に気晴らしの散歩なので、誰彼もありません」


麻友の緊張がゆるむのが、目に見える。


それでも、麗は他の関係筋の娘たちも気になる。

「葵さんとか、銀行の直美さん、学園の詩織さんには何と?」

「言うべきか、言わないでおくべきか、急に決まった話なので」

「もちろん、彼女たちにも都合があると思うのです」


秘書の葉子が、ノックして入って来た。

「麗様、実は昼食の後、麗様と石材屋さんとのお話し中に、大旦那様からのご指示がありまして」

「ここにおられる麻友様はその時ですが、銀行の直美様、財団の葵様、学園の詩織様に誘いをとのこと」

「すでに、全員参加の返事をいただいております」


麗は、実に面倒と思うけれど、氏神の奈良春日大社、氏寺の興福寺に出向くとなれば、一族の者の同行を断るわけにはいかない。

「わかりました、大人数になりますが」と、やや気落ちして返事。


麻友は、その麗の表情を見逃さない。

「麗様、女子ばかりで面倒と?」

「でも、皆、麗様と動きたいんです」と笑う。


麗は、つい本音。

「女子トークは苦手で、ついて行けなくて」

「できれば、一人のんびりがいいかなあと」


葉子も笑う。

「まあ、それは難しいかと」

「ところで、当初は近鉄特急にしようかと思いましたが」

「人数も増えたので、財団で、バスを仕立てます」

「三条執事長も同行しますので、男性の話し相手はおります」


麗は、黙ってしまった。

「これでは、とても気晴らしの小旅行にはならない」

「むしろ、心労だけの一日になる」

「今後、日曜日に何もなければ、そのまま都内に戻るほうが、無難かもしれない」


麻友は、話がまとまったので、九条屋敷を辞した。


麗が、自分の部屋に戻ると、美幸が入って来た。

美幸

「お疲れ様でした、石材屋さんと、麻友様」


麗は、ベッドに腰掛ける。

「何とか・・・意外な話もあったけれど」

「少し休みます」


美幸は麗の隣に座る。

「ほんま、お忙しくて」

「とても音楽どころでは」


麗は疲れを感じていた。

「うん、時間に余裕がなくて」

しかし、横になるのは、恥ずかしい。

懸命に耐えている。

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