第450話吉祥寺の料亭にて 桃香の想い

麗と葵は、ジャズコンサートの始まる時間を考慮して、吉祥寺の香苗の料亭に5時半過ぎに到着、香苗と桃香の出迎えを受ける。


香苗はにこやかな顔。

「麗様、葵様、お久しぶりにございます」

「準備は整っておりますので、お部屋にご案内いたします」

麗も、少し顔をやわらげる。

「突然の話で、気を使っていただいて、助かります」


そのまま、小ぶりな部屋に通され、料理は桃香が持って来るらしく、それまで香苗と話す。

香苗

「麗様、京の九条屋敷からも、また香料店のかつての仲間、それから京の街衆からも、素晴らしい評判になっとります」

「隆さんも退院の運び、結婚式の準備まで進み」

「奈々子さんと蘭ちゃんの引っ越し」

「蘭ちゃんには転校の手続き、奈々子さんには就職の話まで」

「それ以外にも、葵祭、時代和菓子、政治家さんとのお話」

「ほんま、言い切れんほどで・・・」


かなり長く続くので、麗は手で制する。

「いや、香苗さんにも、危ないところを救っていただいて」

「4月の・・・名前も覚えていないけれど・・・つけ狙われた時とか」


香苗は、首を横に振る。

「いえいえ、そんなことは当たり前のこと、お役に少しでも立てたなら、こんなうれしいことはありません」


そんな話をしていると、言葉通りに、桃香が「和風食材を使った洋風料理」をテーブルの上に置く。

桃香が説明。

「湯葉を使ったグラタンになります」

「ビーフシチューとのコラボと言いましょうか」


葵が目を丸くして喜ぶ。

「熱々ですね、上にはチーズが蕩けだして、そして、たっぷりの湯葉」

「その下には、どっしりとしたビーフシチュー」


麗は、一口食べて、美味しさを実感。

「コクがあって、しかも重過ぎない、全ての年齢の人に喜ばれるかと」

「これも、湯葉の魅力かな」

葵も食が進む。

「関東では、それほど湯葉料理を出す店が無くて、ここで食べられるなら、幸せです」

麗は桃香を見た。

「このアイディアは、桃香さん?」

桃香は、パッと顔を赤らめる。

「はい、レシピは私・・・少し蘭ちゃんの考えも」

麗は少し笑う。

「蘭は食べることが好きで」

葵も笑う。

「美幸さんと、蘭ちゃんと、ほぼ毎日女子会で」

「最近、体重計が怖くて」

麗は話題を変えた。

「木曜の夜は、大勢で来てください」

「可奈子さんも、楽しみにしているので」

香苗が、またうれしそうな顔。

「はい、その日は、九条家関連が全員、お邪魔して大パーティーを」

「鎌倉から瞳さんも、美里ちゃんも来ます」


そんな楽しい話が続く中、桃香はどうしても麗に近づけない。

言葉にしたのは、料理の話だけ。

「本当は、麗ちゃん・・・あかん・・・麗様とお話したい」

「でも、葵さんとは、身分が違い過ぎる」

「二人並んで、ほんま・・・お似合いと思うし」

「今までのお世話係さんも、今週のお世話係の可奈子さんも、相当な格上」

「それに、ほとんど、うちのことを見ないし」


ただ、4月の中旬に見た時よりは、顔色がいいので、安心もする。

「ほんと、青白くて、死にそうな顔していた」

「麗様が倒れて見舞った時は、コンビニの梅粥か」

「それでも、今日は料理と言えるようなもの」

「私も、少しだけ成長したのかな」


桃香の視線に気がついたのか、麗も桃香を見ている。

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