第324話詩織からの突然の電話と波紋

茜との電話を終え、少し歩いた時点で、麗のスマホが鳴った。

「今度は誰?」とスマホの画面を見ると、詩織だった。

いくら何でも早すぎると思うけれど、麗は「はい、麗です」と低めの声で電話に出た。


しかし、詩織はハイテンション。

「麗様!おはようございます!」

「急なお話を受けていただいて感激しとります!」

「あらーーー!うれしいわぁ・・・どないしよ」


麗は、実に恥ずかしい。

とにかく詩織の声が大きいので、周囲を歩く人に聞こえているのではないかと、心配にもなる。

そのため、何とか詩織を静めることを考える。

「詩織様、大変申し訳ないのですが、すでに最寄りの駅前」

「これから電車を何本か乗り換えて通学です」

「詳しい話は、土曜日の夜に」


詩織は、それでもおさまらない。

「あらーーー・・・残念やなあ」

「もっともっと、お話したいのに」

「授業に間に合わんのですか?」

「うちは、もっとお話したくて、たまらんです」


麗は、段々不機嫌になってきた。

関係筋、嫁候補の詩織ではあるけれど、何と無神経な女なのかと思う。

通学途中、公共交通機関内の「通話はご遠慮願います」を全く理解していないし、「歩きスマホのリスク」も、全く考えていないのだと思う。

そして、「お嬢様育ちで、子供の頃から通学は自宅から超高級車で送迎か」と、予想する。

それだから、公共交通機関利用者のことなど、全く理解がないのだと、考える。


麗は少々厳しめに言い切ることにした。

「詩織さん、すでに都内は雑踏です」

「歩きスマホは、他人に迷惑になります」

「誠に申し訳ございません、一旦、ここで切らせていただきます」


詩織は、その厳しい口調に驚いた様子。

「あ・・・こちらこそ・・・すみません」

麗は、その返事に乗じて、通話を終え、そしてため息。

「朝から実に疲れる、本当に詩織は面倒だ、明日も逢いたくはないが」


それでも、目黒で電車を乗り換え、渋谷、井の頭線に乗り込む時には、少し落ち着く。

「冷たい言い方をし過ぎたかもしれない」

「しかし、ああでも言わないと、切れなかった」

「ショックを受けているなら、対応はしないとなあ」


その麗が教室に入ると、葵がウィンクをして寄って来た。

「麗様・・・あ・・・麗君、朝からお疲れ様」

麗は、葵のウィンクも「お疲れ様」の意味も不明。

「え?」と聞き返すと、葵が苦笑い。

「詩織さんでしょ?さっき電話がかかって来まして」

麗は、驚いた。

「え?何故?」

詩織が葵に電話をかける理由が、全くわからない。


葵は、また苦笑。

「土曜日の夜にお逢いになるとか?それも詩織さんが無理やりに申し出て」

「そのお礼の電話をされたんやけど、麗様が忙しそうで、悪いことをしたと」

「ほぼ、涙声で・・・迷惑かけたとか・・・明日も逢ってくれんやろかと」

「それで・・・また麗様に電話するのが怖くて・・・うちに・・・」

「うちも、困っとります」


そんなことを言われて、麗も答えに難儀する。

「うーん・・・申し訳ないけれど、事実を申したままで」

「公共交通機関内で、歩きスマホは他者の迷惑でリスクもあるし」


葵は、大きく頷く。

「当たり前です、もし怪我でもされたら、もっと心配です」


麗は葵に確認しようと思った。

「それで、葵さんは詩織さんに何と?」


葵は、含み笑い。

「麗様が、そういう厳しい口調になるのは、相当な事情がある」

「本来は、やさしいお人」

「それがそうなったのだから、詩織さんも今後は、あまりけったいなことを、お控えにと」


麗は「そんなことを言ったのか」と、頭を抱えている。

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