第300話麗はあっさりと帰る。残された人たちは、それぞれ。
すっかり笑顔になってしまった奈々子の横に立ち、麗は葵と美幸に声をかける。
「葵様と美幸さんは、これから当面、ここのアパートにお住みになられるとのこと」
葵と美幸が当然のことなので頷くと、麗は麻友の顔を見る。
「今後の生活で、詳しいことや困ったことがあれは、不動産の麻友さんに」
「麻友さんでも解決できなくて、九条不動産でも解決が難しかったら、私に」
その麗の言葉で、まず麻友が笑い出す。
「まあ、その通りになります」
「そもそも、ここは九条不動産のアパート」
「それで、麗様は、その九条不動産の理事になられるお方」
「大家の上の大家です」
麻友の笑顔と、その言葉につられたのか、深刻だった雰囲気は一変。
全員が、うれしそうな顔になる。
香苗は、明るさを取り戻した奈々子、ホッとした蘭やお嬢様たち、そして麗を見て思った。
「麗ちゃんは、実に成長しとる」
「奈々子を一度で生き返らせる言葉を、言ったんやろな」
「まあ、すごいや、困った時は、必ず頼りになる」
「人を救うし、引っ張る資質がある」
「あれで、もう少し笑顔を見せればいいのだけど」
さて、麗は奈々子と蘭に目配せ、そして全員に頭を下げた。
「長居できなくて申し訳ない」
「実は、高輪の家も、まだ慣れていなくて、そろそろ戻ります」
「何とも、駅から家までの道も、おぼつかない」
と、そこまで言って、あっさりとアパートを出て行ってしまった。
その麗に慌てたのか、麻友も麗の後を追う。
後に残された面々は、一瞬ポカンとなっていたけれど、奈々子がテキパキと動き始めた。
蘭が驚くほど早く湯を沸かし、煎茶を淹れ全員に配りだす。
奈々子
「本当にこれから、よろしくお願いいたします」
「私たちは、東京での生活は初めてで」
蘭も、奈々子の動きがうれしいらしい。
キビキビと奈々子を手伝う。
美幸は、まだ驚きが消えない。
「ほんと、何を奈々子さんに言ったのかなあ・・・」
「どうすれば、これほど変わる?」
「大旦那様にも報告しないと」
葵は、複雑。
「今週からは麗様と一緒に登校と思ったけれど、それを楽しみにしていたけれど」
「スルーされてしまった」
「そうなると学園内と、九条財団の仕事で一緒」
「京都に戻れば、石仏調査で一緒になるけれど」
ようやく落ち着いてきた蘭が、葵と美幸に質問。
「あの・・・麗様は・・・京都では・・・どんな?」
「無事にやっているのでしょうか」
やはり、蘭としては「「無愛想な麗」が気になってしまう。
お嬢様たちから、直接に聞きたいと思った。
途端に美幸と葵の顔が、明るく変わった。
美幸
「いや、もう・・・寺社衆から街衆まで、待ち焦がれて」
葵
「京のことを、よく考えてくれています」
「時代菓子、寺社の保護、それから石仏保存調査」
「もう、葵祭でも立派で・・・評判が高い九条家後継で」
美幸
「どこからかピアノの話も伝わってきて、聴きたい人も多くて」
葵
「麗様が九条家の雰囲気を華やかにして、それが京の街の活気につながって」
香苗は「うんうん」と頷き、奈々子と蘭に、また別の情報。
「麗様は京都に戻るたびに、香料店の隆さんのお見舞い」
「相当危険だった隆さんが、麗ちゃんのピアノで歌を歌うまでに元気に」
「食事も全て完食、最近はおやつまで欲しがるとか」
奈々子と蘭は、また目が潤んでいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます