第279話麗は石仏企画の中心メンバーに

麗は説明を続けた。

「素晴らしい仏師や建築の匠による仏像、荘厳具、堂宇」

「それらを火災、地震、台風、あるいは悲しき戦災から、気の遠くなるような長い間、懸命に守って来られた、あるいは我が身を犠牲にしてまで守り続けて来られた崇高な想いと努力」

「その想いと努力には、御仏も本当に感謝しておられる」

「それだから、この京都も、御仏に守られて来たのではと思います」

「この若く未熟な私ではありますが、ここにおられる皆様、そして先達の方々への感謝は、感謝してもしきれません」


麗の話は、ゆっくり目、それが、また聴く人の心を、さらに引き寄せる。


麗は、ここで石仏に話を振る。

「さて、今までの仏様などとは、異なる歴史を持つのが、露天に立つ石仏」

「立派な荘厳具もなく、そもそも誰が彫ったのか、それもわかりません」

「しかし、長年、どんな天候の日でも、道行く人を差別することなく見守り、癒しを与えて来られたのです」

「暑い日、寒い日、風の強い日、雨に打たれながら」

「すでに崩れ落ちたような石仏も数多」


麗は、ここで、また深呼吸。

「それでも、心ある人は、そんな石仏に手を合わせます」

「また、一度でも手を合わせると、その次に見た時に、必ず手を合わせます」

「中には、お供え物をする、お水をかけてあげる、掃除をしてあげる」

「それをしている人に聞いたことがあります」

「その人が言うのに、仏様の面倒を見ると、心が洗われると」

「だから、続けられる、続けたいと思うと」


麗は、ここまで話して目を閉じた。

「こういう信心の仕方も、決して、間違いではないのではないかと」

「お経では難しくて、意味が分からない人」

「お寺まで行く時間がない人」

「しかし石仏は、どんな人でも手を合わせれば、癒します」

「それを、出来るだけ、整備したところで、それほど文句は出なくて、喜ぶ人が多くなるのではと」


まず、静かな拍手が起こった。

そして、その拍手は、全員からの大きな拍手となった。


麗は、目を開けた。

「まだまだ説明が上手ではありません」

「ただ、思いつきのようなことを言ってしまいまして」

少し頭を下げて、再び椅子に座った。


その麗に大旦那。

「ようやった、いきなりで十分過ぎる話や」


寺社衆からも口々に、賛同の意が寄せられる。


「ええ話や、忘れがちな大切なことを思い出しました」

「若いけれど、よう仏の心をわかっとる」

「そもそも秘仏も石仏も、仏様は仏様や、大切にする心が大事や」

「まずは自分の寺の石仏、それから近所の石仏やね」

「由来を調べなおすのも、また面白い」

「ある程度整備して、石仏巡りの企画はどうや」


その寺社衆の話に、関係筋も加わる。

九条家が経営する学園長

「大学としても、調査には協力します、興味ある企画です」

九条文化財団も発言。

「京都人にとっても、観光客にも使いやすいようなパンフレットも整備します」


麗は、話が盛り上がる様子を見て、実に不安で反省をする。

「言い出しておいて、俺は東京に戻ってしまう」

「無責任と言われても、仕方がない」

「そんな状態であるのに、九条家後継などと、偉ぶってしまった」


しかし、こうも思う。

「話半分で打ち切れば、単なるヨタ話」

「言いたいことの半分も言ってはいないけれど」

「少し過分に話したのが、喜ばれているのか」


大旦那は、再び全員に声をかけた。

「麗は、東京の大学生や、週末しか京都におらん」

「それでな、夏休みに、集中して作業したら、どうかと思う」

「もちろん、麗を中心メンバーとして」


麗は、またしても驚くけれど、断りようがない。

すでに、大きな拍手が沸き起こっているのだから。

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