第275話葵祭当日、早朝から麗は佳子に求められ、応える。

麗とお世話係全員による賑やかな音楽会が終わり、翌日の朝を迎えた。

「まだ6時を少し過ぎた頃、起きるにはまだ早い」と、麗がベッドでまどろんでいると、ドアにノック音、そして「佳子です」との声。


仕方なくドアを開けると、佳子が入って来た。


佳子の顔は、少し赤らんでいる。

「おはようございます、麗様」

「昨晩は、本当に楽しゅうございました」


麗は、まだ頭がしっかり目覚めていない。

「はい、ありがとうございます」程度の答えしかできない。

そして佳子が、こんなに早く来た用向きなど、考えもしない。


佳子は麗の正面に立ち、頭を下げる。

「あの・・・本日は葵祭にございます」

「朝食の後、和服へのお着替えをさせていただきます」


その佳子の言葉で、麗は少しだけ頭が動く。

「自分でも着られます」

麗は、香料店の晃から、しっかり着付けを習っているので、全く不安はない。


しかし、佳子は首を横に振る。

「私の仕事です、麗様」


麗は、素直に応じた。

「そうですね、それではお願いします」

とにかく、こんな葵祭のような日にトラブルを起こすのも得策ではないと思った。

そして、佳子の用件もこれでおそらく済み、部屋を出ていくものと考えた。


しかし、佳子は麗の正面から動かない。

顔を赤らめて、麗を見ている。


麗は困った。

これでは佳子の意図が不明過ぎる。

そもそも、和服への着替えにしろ、朝食後に伝えてきてもいいはずと思う。


佳子は恥ずかしそうに口を開いた。

「あの・・・麗様」

麗は、まだ意味が不明。

「えっと・・・何でしょうか」


佳子は麗の問いに答えない。

そのまま、麗の手を取り、自分の左胸に当てる。

佳子は、顔をますます赤くする。

「昨晩は・・・湯女も・・・添い寝もできず」


麗は、ここでようやく佳子の「用向き」を理解する。

「湯女も添い寝」もできず、お世話係仲間の中で、もしかすると恥ずかしい思いをしていたのではないかと。

それに昨晩の音楽会は、佳子以上に、音楽係の美幸が目立った。

それもあって、佳子には辛い思いをさせてしまったのでは、それが朝早くから、こんな過激な行動に出させているのではないかと。


麗は、できるかぎり、やさしい声を出した。

「佳子さん、少し横になりますか」

その麗の声に、佳子の身体がブルッと震える。

「麗様を欲しゅうて・・・たまらなくて」


余計な言葉は、もうなかった。

麗は佳子を深く抱き、佳子は強く麗を求めた。


全てが終わり、佳子は自分の胸に麗の顔を埋め込む。

「美味しゅうございました、麗様、朝からお花畑にいるみたいで」

「他の言葉が見つかりません」


麗は、かなりの脱力感で声が出せない。

全てを佳子に吸い取られたような感覚。


しかし、それでも朝食の時間、7時が迫ってくると、佳子は麗を解放した。

部屋に入って来た時とは別人のような晴れがましい顔。

「今晩も忍び込みます、あ、湯女も解禁願います」


麗は目を丸くするけれど、佳子はそれには反応しない。

そのまま、麗をベッドから立たせ、手際よく麗に服を着せている。


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