第273話麗はお世話係全員の期待に応えようと思う。

頭を使った宗教論議、その後の夕食を終えた麗は、自分の部屋に戻った。

そして、反省する。


「相当、余計なことを言ってしまった」

「喜んでいるような顔には見えたけれど、言うべきではなかった」

「とにかく、明日の寺社のお偉いさんに対しては、頭を下げるのみにする」

「初対面から、偉そうな口を叩くべきではない」

「寺社のお偉いさんとて、九条家の後継だから、挨拶をするだけだ」

「そうでなかったら見向きもされない」

「結局、顔合わせなんて、将来に渡るお布施目当てでしかない」

「従来通りに金は出して、口は出さない、そのほうがお互いに無難」


その麗の思考を中断したのは、部屋のドアのノック音。

麗がドアを開けると、茜が入って来た。


茜は麗の腕を取り、一緒にベッドに座る。

「麗ちゃん、マジ、感心するわ」

「ピアノといい、さっきの話といい・・・」


麗は首を横に振る。

「いや、出過ぎたことを、余計なことを言ったと反省していた」

「まだまだ未熟で、ごめんなさい」


茜は麗に身体を押し付ける。

「そんなことない」

「もう立派な後継や」


麗が返事に困っていると、茜は話題を変えた。

「なあ、麗ちゃん、お世話係さんたちが、麗ちゃんと遊びたいと言うとるよ」

「音楽したいとか、お話をしたいとか」

「麗ちゃんが可愛くて面白くて仕方ないみたいや」


麗は、また返事に困った。

「そう言われても何を?」


茜は、少し笑う。

「麗ちゃんは声をかけづらいやろ?」

「うちが段取りするよ、音楽でもお話でも」

「そうしないと、お世話係さんたちの欲求不満がたまってかなわん」


麗は首を傾げた。

「そんなもの?それほど?」


茜は、また笑う。

「麗ちゃんが東京に戻ると、もうみんな顔が暗くなる」

「うちもそうやけど、笑い声が消える」

「帰る日を指折り待つ、そんな感じや」


麗は、茜の顔を見た。

「何かしたほうがいいかな」

「音楽とかお話とか」


茜は、笑顔。

「そやなあ、麗ちゃんのピアノでみんなが歌うとか」

「麗ちゃんがお話、式子内親王様とか源氏とかのお話も」

「盛り上がると思うよ、そういうの」


麗は、この時点で、茜からの話に乗ることにした。

これも九条家内の融和と考えた。

「ピアノを弾きます」

「聴いてくれる人なら、誰でも」

「伴奏してとの希望があれば、します」


茜は、ますますの笑顔。

麗の腕を引き、勢いよくベッドから立ち上がる。

「さあ、善は急げや」

麗も、そうなっては立ち上がるしかない。


麗は茜に腕を引かれ、お世話係全員の待つ音楽室に向かうことになった。





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