第258話麗と茜、そして蘭

麗は花園美幸との話を終え、自分の部屋に戻った。

自分の部屋に戻る途中で、執事長の三条に声をかけた。

「お世話係の湯女と添い寝は、遠慮する」

「夜の街には出かける気持ちもなく、全てのお世話係は都内限定にしたい」

「どうしても必要があれば、呼び出すこともある」


三条は「そこまでお気になされなくても、お世話係の嫉妬とやらのことですか?」と聞いてくるので、麗は頷く。

「誰に対しても、公平にとのことです」

「お世話係個人の好き嫌いの話ではありません」


三条は、深く麗に頭を下げた。

「わかりました、漏らさず伝えさせていただきます」


麗が自分の部屋に戻り、英語の課題に取り組んでいると、ドアにノック音。

ドアを開けると、茜が入って来た。


茜はそのまま、麗のベッドに腰掛ける。

「麗ちゃん、考え過ぎや」

「慎重過ぎとも思う」


麗は、黙って聞いている。


茜は、ポンポンと麗に苦言。

「花園美幸ちゃんも、驚いたって」

「全然笑わんし、嫌われたんやろかって」

「弁解はしておいた、麗ちゃんに悪気は無いって」

「佳子さんもそうや、えらいがっかりしとる」

「気に入られたと思うとったら、すかされたって」

「そのまま湯女させて、添い寝させればええのに」

「しかも、順番が決められとって、当然のお役目や」

「佳子さんが、この一週間、麗ちゃんを独占するのは当たり前や」

「そんなん、誰も気にせんて」


麗は、苦言の連続を聞くばかり。


茜は、麗の手を掴んだ。

「もう!こっち来て!」

麗をそのままベッドに引きずり倒し、横抱きにする。


それでも、麗は、ようやく反論を開始した。

「そんなことを言われても」

茜は、ムッとした顔、麗を強く引き寄せる。

「何や、言うてごらん」

麗も、ムッとした顔。

「一人になって考えたいこともある」

「年がら年中、隣に人がいると、気を使って集中できないこともある」

「学生だから、課題もあるし」

「佳子さんが好きとか嫌いとか、他のお世話係が嫉妬とかのレベルの話ではないよ」


茜は、麗の言うことが「正論」と思うので、ようやく少し引く。

それでも、麗から腕を離さない。

「そんな怒った顔しない、可愛い顔しとるんやから」

「わからん?女殺しの麗ちゃん、ほんまや」

「お世話係のみんなも気になって仕方ないよ」

「可愛がって欲しくて、どうにもならんて」


麗は、ますます機嫌が悪い。

「その女殺しって何?」

「姉さん、意味わからない」


茜は、その麗の機嫌が悪い顔が面白くなった。

そして笑い出す。

「まあ、可愛い顔で、文句を言うのは麗ちゃんや」

「絵になるわぁ・・・ほんま・・・」

「ツンツンしたくなるほど可愛い」


そんな膠着状態を破ったのは、机の上の麗のスマホだった。

麗が茜の腕を振りほどき、スマホを手に取ると、蘭の大きな声が聞こえてきた。

「麗ちゃん!あ!ごめんなさい!麗様!」

「ありがとうございます!引っ越しの荷物の整理が終わりました!」

「いろいろ心配かけてごめんなさい!全部手配してくれて!」


麗は、静かな声。

「ああ、いいよ、大旦那には御礼を言っておく」

「新しい生活で大変だろうけれど、前を向いて」

「日向先生と高橋先生にもお礼に一緒に行く、それから高輪の家にも来い」

「花園美幸さんのカウンセリングもしっかり聞いて、母さんにもやさしく」


後ろで聴いている茜は思った。

「蘭ちゃん、声が大きいから、全部聞こえる、それにしても、いいお兄さんや・・・」

「うちは、めちゃ可愛い弟や、可愛くてたまらん」


結局、茜も我慢できなかった。

蘭と話をしたくなって、麗に目配せをしている。

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