第195話葵と一緒に授業 高橋麻央が待つ研究室に

麗は愚問とも思ったけれど、葵に確認をする。

「つまり、葵さんも、同じアパートに?」

葵は、顔を少し赤くして即答。

「はい、すでに不動産部の麻友様とも相談済みで」

麗はここまで話がついていれば仕方がなかった。

「わかりました、その時には」

と、いつもの地味な返事を返す。

葵は、また笑顔。

「麗様とは、九条財団のブログのお話でもご一緒することも、これから多々ございますし」

「何しろ、同じ大学、同じ授業を受けますので、何かと便利になるかと」

麗もこれには頷く。

「それは、その通りと思います」

「より良いブログを書くためには、確かに有益かと」


麗と葵は、そのまま教室に入り、並んで座り、英語の授業を受ける。

その麗は、少し違和感がある。

今までは、知り合いが隣に座る授業などはなかった。

もちろん大学入学して、一か月程度、サークルに参加してはいないし、積極的に他者と話す性格ではないから、それは当たり前になるけれど、慣れないことには変わりがない。


「ほのかな柑橘系のフレグランスか」

葵から、少し甘味のある香りがしてくる。

それと、いつのまにか眠気。

「最近食べ過ぎで」

「しかも直美と・・・」

「食べた以上に精力を使ったのか」

そんな反省もあるけれど、眠いことには仕方がない。


それでも麗は、必死に眠気に耐えた。

授業終了時までは、目を閉じることは、なかった。

英語の課題を講師に提出する際にも、足をふらつかせることはない。


しかし、麗の眠そうな顔は、葵にしっかり見られていた。

「麗様、眠そうでした」

「よく我慢なされました」

笑われているのか、褒められているのか、麗は戸惑うけれど、葵は上機嫌。

「そのまま眠られても、お身体を支えましたのに」

「少し、残念かなあ」


麗は、答えに困る。

「滅多に授業中は寝ません」

「余程の退屈な授業でなければ」


葵は、麗の答えを逆手に取る。

「滅多にと言われるのなら、少しはあるのですね」

「退屈な授業ねえ・・・何でしょう」

「それが狙い目です」


麗と葵がそんな話をしながら、高橋麻央の待つ古典文化研究室に歩いて行くと、不動産部の麻友から連絡。

「午後一時に大学構内に入ります」

麗は、すぐに返事を返す。

「ありがとうございます、学生課の前で待ちます」

葵は、また笑顔。

「あの、私も立ち会ってよろしいでしょうか」

麗は、断る理由がない。

「全くかまいません、麻友さんと打ち合わせもあるでしょうし」


古典文化研究室の前で、高橋麻央が立って待っていた。

そして麗に笑いかけてきた。

「もー・・・麗君・・・いや、麗様かなあ」

「全く、秘密主義・・・」

「失礼なことを言ってしまったかなあと・・・」


麗は、少し頭を下げる。

「いえ、自分から言う話とも思えず」

「それから連絡事項で、これから学生課で手続きとなりますが」

「沢田麗から、九条麗と名前が変更となります」


葵が高橋麻央に笑いかける。

「今後、楽しみですね」


高橋麻央は、眩しそうに麗を見つめている。

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