第155話五月は執事鷹司を尋問する。

麗と茜、大旦那が外出中、五月は執事の鷹司を呼び出した。


五月

「麗様を甘く見んほうがお前のためや」

「その意味わかる?」


鷹司の肩が震えた。

「いや・・・葉子が、あっさりと断られたくらいしか・・・」

「それには、驚きましたけど・・・」


五月の表情は厳しい。

「麗様は、このお屋敷に入った時の、お辞儀の様子を全部見とるよ」


鷹司は、五月の言う意味がわからない。

「・・・と、おっしゃりますと?」


五月は、声を低くした。

「なんや、執事で気がついとらん?」

「お辞儀をしながら、そっぽ向いた者」

「うすら笑いを浮かべた者」

「中途半端なお辞儀の者」


鷹司は、背中に冷たさを感じる。

反論が出来ない。


五月は鷹司に厳しい視線を浴びせる。

「麗様は、その後、使用人名簿で顔を全部確認しとる」

「今頃は、茜と大旦那に、その話をしとるかもな」


鷹司は五月に深く頭を下げた。

「しっかりと教育をしますよって・・・」


五月は首を横に振る。

「頭を下げる相手は、まずは麗様や」

「お辞儀もロクに出来ん者を、麗様が信頼するとは思えん」

「決して簡単に扱えるお人やないし」

「弱い男ではない、それ、知っとるやろ?」


鷹司も、それは頷く。

年上の従兄の隆をかばって、恵理や結に折檻を受け続けた麗には、「男気」までも感じていた。

ただ、その恵理と結の暴行を止められなかったのは、自分に対する恵理と結の逆切れ恐れたため、自分にとっての「事なかれ」を貫いたため。

何しろ、逮捕される前の恵理と結に逆らうなど、とても無理だった。

執事の自分でさえ、簡単に首を切られるのは、必定。

大旦那に事情を説明すれば、何とかなるとは思ったけれど、それが度々では、鷹司としても、どうしても遠慮する。

そのため、血だらけになる麗を哀れと思っても、結局は見て見ぬフリを続けてきた、そんな負い目がある。


五月は、さらに言葉を重ねた。

「鷹司だって、うかうかしておられんよ」

「麗様は、次の当主として、健康に継いでもらわなあかん」

「それは、わかるやろ?」

「決して・・・危険な目に合わせとうない」

「見て見ぬフリは、もう出来ん」


鷹司の身体は震えたまま、五月の言葉の真意を探るけれど、まだ、わからない。


五月は、少し間を置いた。

「ところでな、兼弘さんと、由美さんを看取った病院」

「あれ・・・恵理と宗雄の紹介やけど・・・」

「あんた・・・何か知っとることないか?」


鷹司は、首を激しく横に振る。

「いえ・・・滅相もない」

「全く知りません・・・」


五月が、フフンと笑う。

「まあ、ええわ、今、知り合いの刑事と大旦那、茜、麗様が向かっとる」


執事鷹司は、顔が真っ青、そのまま崩れ落ちてしまった。

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