第153話麗のやさしさ

午前9時過ぎ、麗と茜、大旦那は隆の病室に入った。

麗が隆に近づくと、隆は起き上がる。


隆は泣いているような、笑っているような、クシャクシャの顔。

「麗ちゃん、ごめんな、御見舞いなんて」

麗は、隆の背中を抱える。

「うん、逢いたかった、ずっと」

「早く元気になって」

隆は、起き上がる力も続かない、麗にもたれかかる。

「いつも、麗ちゃんに、いろいろ面倒見てもらって」

「ごめんな、今もそうや」

「情けないな、こんな従兄で」

麗は隆に、その頬をつける。

「そんなことないよ、隆さん」

「一緒に虫取りして、遊んで、楽しかった」

隆は、また泣く。

「麗ちゃんと、こうしている時が、一番幸せや」

「生きてきて、麗ちゃんに逢えたのが、一番幸せや」

麗は、隆の背中を軽くさする。

「早く良くなって、一緒に遊ぼうよ」

「一緒に歩きたいよ、ね・・・隆さん」

「京都でもいいし、東京でも、横浜でも」

隆が笑う。

「そうやなあ、京都を出て、浅草とか銀座とか」

「横浜で中華もええなあ、港も見たいな」

麗は、隆が笑顔になったので、ゆっくりと再びベッドに戻す。

「隆さん、指切り、守って」

「約束だよ、だから、早く治って」

隆は、麗の手を握る。

「また、ピアノ聴きたい、麗ちゃん」

「頼むよ、元気になれる」


看護師が麗にささやく。

「そろそろ、休ませてあげて」


麗は頷き、そっと隆の手を離す。


看護師は麗にお礼を言う。

「最近、麗様のお話ばかりで、元気になっていて」

「今も血圧も正常値、信じられないのですが、肌にも赤みが」


麗は、再び隆に声をかけた。

「じゃあ、僕の約束、今度はキーボードを持って来る」

「その時にね、僕も隆さんに聞いてもらうのが楽しみ」


隆も力強い声。

「ああ、楽しみや、待っとる、元気になる」


麗は、再び隆の手をしっかりと握った。

そして、大旦那と茜、病室の隅で見守っていた叔父晃に目配せして、病室を出た。


大旦那

「泣けたな、わしも」

「麗はいい子や」


茜は、ボロボロに泣く。

「麗ちゃん、すごい、それとしか言えん」


叔父晃、いや、麗が九条家に戻った以上は「叔父」晃は、その顔を上にあげられない。

「まさか、ここまでとは・・・」

「麗様、お薬師様みたいで」


麗は、そんな晃を気遣う。

「まだまだ、頑張ってもらいたい」

「隆さんとせっかく話せたんです」

「東京とか横浜の旅行の話も、ピアノの話もしたので」


晃の顔が笑顔に変わった。

「それでは、香料店へ」

「みんな首を長うして待っとります」


麗は、その晃の肩を抱いている。


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