第151話茜は葉子を詰問、指示者を把握、そして助言。

茜は、少しして麗の部屋を出た。

麗はまだ新品のベッドに横たわり、いろいろと考える。


「やはり、最初の夜から面倒だ」

「明日は隆さんの見舞い」

「香料店への顔見せ」

「京都で着る服や家具を買うかもしれない」

「何と、忙しいことか」

「できれば、明日は東京に戻りたい」

「また、風呂で面倒があっても困る」

「夕食も断って帰るか」

「しかし、何の理由をつける?」


麗は、いろいろ考えるうちに眠くなった。

やはり、一日二食、しかもステーキ肉が胃に重い。

あっと言う間に眠りに入ってしまった。



さて、麗の背中流しを拒否された葉子は、茜に呼び出された。

そして、詰問を受ける。


「誰の指示や?」

葉子は身体が震える。

「それは・・・あの・・・」


茜の声が厳しい。

「お役目とは何や」

「麗に迫ろうと?」

「それで軽くあしらわれて、泣く?」

「そんな甘い男やないよ、麗は」


葉子は下を向く。

そして、ようやく答え。

「確かに・・・指示は・・・上の方から」

「やすらいでもらえと」


茜は、この答えの時点で、指示を出したのが「おそらく」と判定をつけた。

そして、数ある若い女性使用人の中から、最初に葉子を選んだ理由を探る。


「葉子は、奈良出身で、奈良の有名女子大の出身」

「文学部やった、だから万葉から始まって、古文、文学に詳しい」

「となると、麗と葉子は話題が合う」

「そして葉子は、大人しくて、真面目なタイプ」

「芯は強いけれど、引き際もしっかりわきまえる」

「だから、麗の拒絶に、あっさりと引き下がった」

「なかなか、考えた人選や」

「麗の人柄を把握する上でも、ベストやな」

「麗が見ず知らずの女に簡単に落ちるタイプか、慎重なタイプか」

「それも九条家を守るためには、しっかり把握しとかないと」


指示を出した人の目星がついたことから、茜は葉子の「なぐさめ」に入る。

「葉子さん、がっかりせんと」

「麗は、葉子さんやから、断ったわけやない」

「慎重な子や、滅多なことでは冒険はせん」

「だから、誰であっても、どんな女であっても簡単には落とせん」

「ましてや、顔も見せず、初対面にもなっとらん」


葉子は、茜の言葉で、顔を上にする。

「ありがとうございます」

「助かりました」

すでに涙はない。


茜は、葉子に、さらにやさしい言葉をかける。

「話があれば、話しかけても、面白いかもな」

「まあ、話題としては、源氏でも枕でも、万葉でもかまわん」

「そう言えば、麗ちゃん、ブログで式子内親王様を書く言うとったけど」


葉子の顔が、パッと赤く染まった。

「え・・・麗様?式子内親王様を?」

「うちも、大好きなんです」


葉子の瞳は、また潤んでいる。

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