第142話「父兼弘」の部屋で 麗と茜

麗は居間を出て、茜と一緒に、今夜から泊まる、亡き「父兼弘」の部屋に入った。

広さは12畳ほど。

洋間、立派なダブルベッドが備え付けてある。


茜がいろいろと説明をする。

「ベッドは麗ちゃんのために、新調したよ」

「それから、ウォークインクローゼット」

「テーブルと椅子は好みがあるから、明日以降の時間がある時に」

「今は、お屋敷の倉庫にあった黒檀の机と、リクライングの椅子にしてある」

「テレビも新調したよ、4Kや」


麗は、さすが金持ちの九条家と思うけれど、机の上におかれたPCが気になる。

茜に東京のアパートで聞いた通り、実に新品。


茜がそんな麗の視線に気がついた。

「麗ちゃん、じゃあ、セットアップする?」

「そうですね、少し見たいものがあって」

茜がそんな麗をつつく。

「麗ちゃん、そんな丁寧な他人行儀な言葉はいらん」

「姉ちゃんやで?うち、やりづらい、ドキドキする」

麗は、ここでも地味対応。

「はぁ・・・」となるだけ。


そして、早速PCのセットアップ作業となった。

実際、本当の新品だった。

ただ、スペックも抜群な高級機、処理速度も速く、全ての作業がスムーズに進む。


「なあ、麗ちゃん、ところで見たいものって何や」

「うーん・・・五月さんも言っていたんだけど、ここの御屋敷に関係する人と名前、そのデータみたいなのを知りたくて」

「言い難いけれど、その知識が必要になることもあると」

茜は感心した。

「さすがやな、仕事が速い」

「確かに言い難いけど、隆さんに万が一あれば・・・顔合わせもある」

「いや、その前に病院でも、顔合わせはあり得るので」

「無礼で無様な対応は出来ないと思う」


茜はそんな麗を好ましく思う。

「芸が細かいなあ、でも、それが安心する」

「京都では人前の粗相が、いつまでも後を引く」

「ましてや、九条家の次代当主や」

「慎重な対応が、何にも増して求められる」


セットアップが全て終わったので、さっそく「九条家関係者名簿」をPC内に取り込む。

「夕食後は一晩見ていようかと」

「うちも解説するよ」

「助かる、姉さま」

茜は麗を横抱きにする。

「あら、やっと言ってくれた」


麗は、焦る。

「あの・・・近すぎでは?」

茜は、麗への密着を止めない。

「父さまの血が触れ合っとるんや、心配ない」

麗は、その言葉には応じない。

また、話題を変える。

「あの、使用人の名簿も欲しいんです」

「全てを覚えているわけではないので」


茜は、麗の肩に頭を乗せる。

「ほー・・・急ぎたい?」

「うちは、こうしていたいけど・・・」

麗は、その茜の願いを、あっさりと拒絶。

「少し気になることがあって」

「実は、急ぎたいと」


「麗ちゃん、何か気がついたの?」

茜は、麗の顔を真正面から見つめている。

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