第143話麗の分析と対策

大旦那と五月は、東京のアパートで麗から聞いた話で、深刻な顔。

大旦那

「つまり、兼弘を看取った医者も、麗の実の母を看取った医者も同じ医者や」

「兼弘が突然死ぬ前に、麗が恵理と宗雄の醜態と話を聞いとるとな」

五月の顔が蒼い。

「麗ちゃんの母さんの由美ちゃんは毒殺やけど病死扱いと」

「兼弘さんも、病死扱いやけど、実はあの二人と、医者がつるんで毒殺と?」

大旦那

「麗は、嘘を言う子やない、真実や」

五月

「締め上げましょう、殺人の共犯やないですか」

大旦那

「馬鹿にされとるわけにはいかん、つぶさなあかん」

五月

「いかように?」

大旦那は爪を弾く。

「思い切り恥をかかせ、その後は・・・」

五月は頭を下げた。

「わかりました、手練れを使います」

大旦那は、その五月を押し留める。

「いや、少し待て」

五月

「と、言いますと?」

大旦那

「麗がチラリとわしにな、兼弘の部屋に行く前に」

「屋敷内に内通者がおるかもしれんと」

「それを確認したいと」

五月は、身体が震えた。

「そうか・・・麗ちゃん、読みが深い」

「香苗さんも言っとったけど」

大旦那

「恵理と宗雄は、口裏合わせを屋敷の者としてあるかもわからん」

「悪知恵、それも底の浅い悪知恵やけど」

「麗は、わしらとは別の目で、屋敷の者を見て来た」

「だから、気が付く場合もあるかもしれん」

五月

「麗ちゃんの話も聞かんと・・・ですね」



その麗と茜は、麗の新品PCに取り込んだばかりの御屋敷の使用人名簿を見ている。

「鷹司執事を筆頭に、料理人まで入れて30人くらいや」

「長い人は40年くらいやろか」


麗は、PCに映った顔写真を、あちこち指さしながら、つぶやく。

「玄関に入った時に、全員が額づいていたんだけど」

「中には、額づきながら横を向いていたり」

「面倒そうな動作、うすら笑いも数人」

「少なくとも、心からの歓迎ではなかった」

「結局、田舎育ちの田舎者と馬鹿にしているのかな」

「気に入らんな、麗ちゃんの責任やない」

麗は首を横に振る。

「面従腹背と言う言葉があるけれど、面従さえ出来ていない」

「麗ちゃん、次期当主やから、気に入らんかったら首にしてもかまわん」

麗は、また首を横に振る。

「いや、釘を刺す程度でいい」

「簡単には辞めさせない」

「下手に首にして、あることないこと言いふらされても困る」

「でも、釘は刺すんやろ?」


麗は目を閉じて思案する。

「言い方が悪いけど、この状態では密告制度を作るかな」

「業務怠慢とか、変な動きをすれば、すぐに密告させ、把握する」

「もちろん、それが真実かどうかも、しっかり分析をする」

「一番手を自慢する人より二番手を持ち上げたりして、疑心暗鬼にさせてもいい」


茜は麗の言葉に驚き、恐れ、そして逆に安心感を持つ。

「陰険と言えばそうなる、マジに敵になりたくない、でも味方としては安心できる」


麗が、そんな茜の顔を見て一言。

「つまり、古代ローマ帝国の初代皇帝アウグストゥスの統治手段の一つ」


茜は、麗の言葉に、またしても驚きを隠せない。

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