第140話麗は車窓から京都の街を眺める。

麗は車中から京都の街を眺めた。

「聞いていた通りだ」

「観光客ばかり、それに中国人が多い」

「漢字文化圏で共通するものもあるのか、来やすいのか」


茜が和服を着ているカップルを指さす。

「あれは、ほとんど外国人や」

「まあ、比率的には中国人が多い」

「今、京都で着られる和服は、観光客のほうが多いかもな」

「みんな使い古しの半端な和服ばかりやけど」


麗は和服そのものに、興味はない。

着たければ着ればいい程度。

現代の社会生活において、活動性に難がある和服を着るなどは、面倒と無駄の極みと思う。

せいぜい、お習い事で見栄のために着るぐらいと思っている。

いつか京都の着物業界だったか、天皇や皇族は着物を着るべしとか言うのを聞き、無礼の極みと思った。

どうして天皇や皇族が、他人に自分が着る服まで、指定、強要されなければならないのか。

着物文化や業界のために、天皇や皇族があるわけではない。

「また、そんな連中に逢うのかな、気が重い」


「お習い事にしても・・・」

「どうせ、師匠に約束以上に余計に金を払って、位があがるだけだ」

「払わないと、見向きもされず、下手をすれば指導もされず」

「華道、茶道、香道・・・全てそう」

「実力は二の次、なあなあの世界、付け届けの多い少ないで段位も変わる」

「いつか居合道でも、そんなことがあった」

「マスコミは批判したけれど、批判された当人たちは、ほとんど悪びれることもなく、結局は、同じことの繰り返し」

「そんな実態も知らずに、京都の師匠と言うだけで、田舎では神様だ」

「そして純朴な田舎者からも、余計に大金を巻き上げる」

「それが千何百年も変わらず続いて来た世界」


麗は、気が重い中、また車窓から京の街を眺める。

「まあ、明るさがない」

「寺社が多い」

「京都の街全てが、墓場か」

「積み上げられてしまった歴史と、実力は低いが気位だけは高い人たち」

「歴史に頼り、自らの努力は怠る」

「その歴史とて、自分が築き上げたものではないのに」

「田舎に行けば、いかにも自分が全て背負っているような根拠のない自慢顔」

「失敗すれば、他人の責任、自分の失敗でも他人から金を取るし、預かった金は返さない」


そこまで思って、麗は車窓から京都の街を眺めるのをやめた。

見ているだけで、その淀んだ雰囲気に気分が悪くなる。


目を閉じて、麗は自分が唯一好きと思う神保町を思い浮かべる。


「何の不要な気遣いもなく」

「ただ、書籍の街」

「あらゆる文化や思想が書籍として集まり」

「あの山本古書店のおじさん、いいなあ」

「とっつきにくかったけれど、話をすればするほど、その学識の深さに引きずり込まれる」

「実に誠意あふれる人だ」

「古書店など、たいした儲けもないかもしれない」

「でも、その人の中に蓄えられた学識は本物」

「早く、また戻りたい、神保町を歩きたい」

「本を探したい、新しい知の世界を探したい」

「その扉を開けたい」


しかし、そんなことを思っても、黒ベンツはしだいに見慣れた九条屋敷に近づいていく。

麗は、見たくもないので、目を開けない。


「監獄か・・・監獄に入るような気がする」

「とても一泊以上は無理だ」

「隆さんの見舞いが終わったら、東京に戻ろう」

「でも、万が一・・・葬式になると面倒だ」


黒ベンツは、とうとう九条屋敷に入った。

そして玄関前に横付け。


麗が大旦那と茜に続いて、玄関に入ると、全ての使用人、およそ30人程度が額づいている。


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