第126話九条様との面会(6)

麗は、確認する必要のあるものの中から、茜が同席しても問題がないことを、まず聞こうと思った。

「僕は大学は、今の大学で構わないのでしょうか」

ただし、これも、今後の生活や人生にとっても、大きな転換をもたらす要因になる。


大旦那は、柔らかな顔。

「まあ、わしや茜としては、京都でとなる」

「それは、わかるやろ?」

「ようやく一つの血のつながった家族になれたんや、それが当たり前や」


麗は、頭がクラクラとしている。

出来れば、せっかく慣れ始めた、今の生活を変えたくない。

高橋麻央や佐保、日向先生、図書館司書の山本由紀子とその父の古書店主と、もっと話をしたいと思うのが本心。


麗が黙っていると大旦那。

「そうかと言って、麗の気持も大事や」

「あまりに急かしとうもない」


茜が、麗に微笑んだ。

「つまり、大旦那様は、無理に今すぐに大学や住む場所を変えなくてもいい、とのお気持ち」

「最初はすぐにでもと思うたけど、まずは養子縁組や」

「事件の経過もある程度は見ないとあかんし、今は慎重にとな」


麗がホッとした顔になると大旦那は柔らかな顔。

「まあ、土日ぐらいは、京都の屋敷ではどうや?」

「授業の関係もあるやもしれんが」

「それを頭に入れて欲しいんや」


麗は頷いた。

「特にサークルに入っているわけではなく、土日は予定がありません」

「それは可能と思います」


茜はうれしそうな顔。

「そうなると土日は楽しみやな」

「いろいろお話しよ」


そして茜は話題を変えた。

「なあ、麗ちゃん、まだ連絡することもあるんや」


麗が茜の顔を見ると、大旦那も茜に目で合図。

どうやら茜が話をするようだ。

「実は、ここのアパート、九条の財団で買おうかと」


麗は驚く。

「え・・・何故?」


茜は落ち着いた顔。

「そうすれば麗ちゃんも家賃を払わんでええし」

「調べたら、もう少しすると空き家が一軒出る」

「奈々子さんと蘭ちゃんの仮住まいにも出来る」


麗は困惑した。

「ここに、あの二人が?」

できれば、それは避けたいと思う。

せっかく「他人様」になったのに、また元の木阿弥ではないか、それも自由たるべき東京の地で、麗は心が沈む。



大旦那が、麗を見た。

「何しろ、あんな事件があった」

「引っ越しするしかない」

「しかし、京都では住むに難しい場合もある」

「ここなら、そんな気兼ねはない、吉祥寺には香苗も桃香もおる」

「鎌倉には瞳も美里もおる」

「いつまでも、というわけやない」

「ことが落ち着くまでや」


茜が麗の手を握る。

「それもこれも、麗ちゃんの健康のためもあるんや」

「こんな痩せた手でどうする?」

「暑い夏を乗り切れる?」

「倒れられたら、みんながお先真っ暗や」


麗は、全く反論ができる状態ではない。

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