第104話「妹」蘭と「妾候補」桃香の結論の出ない話。

麗の「妹」蘭は、本当に不安でならない。

「母さんは、泣くばかりであてにならないし」

「親父は行方不明、麗兄ちゃんの金持ち出して海外?」

「隆さんが危ないっていうのに、何を考えている?」

何度も何度も考えるけれど、全くどうしていいのかわからない。


その蘭に桃香からも電話。

「麗ちゃんと結婚しようと思ったんやけど・・・香苗さんに、いいとこ妾って言われた」

「蘭ちゃん、その意味、わかる?」


蘭は、身体が震えた。

「九条の大旦那?」

「つまり・・・兄ちゃんじゃ・・・なくなる?」


桃香は、即答。

「そや、本来の生まれたお屋敷に戻る」

「香料店も飛び越えて・・・な・・・」

「そうなると・・・下々の女などとは・・・」


蘭は涙が出てきた。

「いつの時代?今でも・・・そんなこと・・・」


桃香

「無理や、京都やもの、その京都でも、ますます古い」

「そろそろ人選を始めとるかもな」

「どこか・・・格あるお家の」


蘭はそんなことを言う桃香が嫌で仕方がない。

「桃ちゃん、それでいい?そんなんでいい?」

「好きなんでしょ?兄ちゃんのこと」


桃香も泣き出した。

「好きや・・・当たり前や・・・」

「でもな・・・しがない香料店の従業員の姪や、親は単なるサラリーマン、九条様から見れば下民や」

「どうあがいても・・・妾止まり・・・、妾だってあやしいもんや」

「それが京都や・・・」


蘭はこの時点で、涙があふれて言葉にならない。


桃香

「おまけに・・・麗ちゃん、この間・・・鎌倉で美里ちゃんとも、逢うたらしい」

「美里ちゃんも、麗ちゃんを好きやで、昔からや」


蘭は、子供の頃、麗を桃香と美里が取りあうのを何度も見てきた。

ようやく涙が止まったので、聞いて見た。

「で、鎌倉で麗兄ちゃんと美里ちゃんは?」


桃香

「ああ、麗ちゃんらしいけど・・・ほぼ知らんぷり・・・大学の先生と、その妹さんと一緒やったらしいけど・・・瞳さんが出てきて、ようやく挨拶」

「後は逃げるように店から出たって」


「それじゃあ、いいじゃない、何が問題?」


桃香の声が苛立った。

「その日の晩、美里ちゃんから電話」

「美里ちゃんにつれない態度をしたのは、私が仕向けたとか」

「許せん、恥かかせてとか・・・」


「とばっちりだよ、そんなの・・・麗兄ちゃんが、あんな人ってだけだよ」

「桃ちゃんだって、麗兄ちゃんの行動を全て把握しているわけでないでしょ?」


桃香はため息をつく。

「それが美里ちゃんには通用しない」

「でも・・・美里ちゃんになびいたところで・・・美里ちゃんやて・・・妾や」

「妾の座を巡って・・・争う?」

「いや・・・身分で言えば妾候補や、うちも美里も」


蘭はまた泣きだした。

「馬鹿麗ちゃん、心配ばかりさせて・・・」

「何をどうしたらいいの?」


蘭と桃香は結論の出ない話で、しばらく泣くことになった。

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