第103話叔父晃との電話は続く。

叔父晃の笑い声が止まったので、麗は佐保に言ったことと同じことを言う。

「それで、晃叔父さん、やはり学生の身分です、平日には授業があります」

「かといって、京都の土日、しかも葵祭のある時期は、お店の取材は邪魔になる」


叔父晃

「それはそうやなあ・・・」

「京都の学生が取材に来るわけでもないしな」

「麗の言う通りや、土日、無理や、他のお客様に申し訳ない」

「それも心配しとった」


麗は、ここで叔父晃からの電話の本当の意図を理解する。

つまり、叔父晃の意図は、京都人特有の「一旦ははんなりと受ける、しかし実現には苦慮する、だから誰かに何とかして欲しい」ということ。

しかも、取材の手伝いが麗であることも、感じ取っていたらしい。

そもそも日向先生との話で、麗の名前が出ていたのか。

あるいは高橋麻央の両親からも、出たのかもしれない。


麗は、言葉を続けた。

「それで・・・都内とかで関連店の紹介をしてもらったらとだけは、話しました」


晃は、ホッとした声。

「ああ・・・それなら心配いらん、麗もうちも」

「銀座でもええし、信頼できる店を紹介する」

少し間があった。

「わしは・・・麗が京都に来て、そのまま教えても・・・かまわんけどな」


麗は、すぐに否定。

「いや・・・できれば・・・本業でないと」

「僕のは、素人で」


その取材話も終わり、晃は話題を変えた。

「なあ、麗、実に早いと思うかもしれん」

麗は、晃の言うことに予想がつかない。


「早いとこ、嫁さんを見つけんとな」

麗には、あまりにも意外な話。

「え・・・大学に進学したばかりで・・・仕事もしていないのに?」

晃は真面目な声になった。

「いや、そんな悠長な話ではないんや」

「あ・・・はい・・・」

しかし、あまりにも早い話としか、思いようがない。

「うちの隆も危ない、その隆も未婚、子もいない」

麗は「あ・・・それは」と返すのみ、それ以上は答えづらい。

「九条のお屋敷もそうや、わかるやろ?」

麗は「それは・・・その通りで」と答えるしかない。

しかし、叔父晃の香料店のことなら、ある程度は親身になるけれど、格上の九条の家までは考えるべきではないと思う。

茜からの電話で、「姉と弟」のような話になったけれど、あくまでも悪い冗談としか思っていない。


晃は嘆くような声に変わった。

「なあ、この京都の古い世界や、子孫断絶などと言ったら、どんな噂になるのやら」

「だから、とにかく嫁さんを早くもらって、跡継ぎが欲しい」

「ああ、何人でも欲しい」

「麗・・・わかるか?」

「お前だけや・・・頼めるの・・・」


麗はうなった。

「そう・・・急に言われても・・・」

「どうしていいのやら・・・」


晃の声が低くなった。

「おそらく・・・九条様のお話の中でも・・・それは出る」

「だから、粗相のないようにな」


麗は、困った。

「うーん・・・あまりにも・・・」

と思うばかりになっている。


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