第71話麗の両親の呪縛

麗がショパンのバラード第一番を弾き終えると、麻央と佐保は、驚いた顔で拍手。

麻央

「ほんと・・・素晴らしかった」

佐保

「ここまでとは・・・別格」


麗は、少し頭を下げるだけ。

「最近、練習もしていないので、恥ずかしい限りです」


麻央は、首を横に振る。

「ずっと習っていたの?」


麗は、素直に答えることにした。

音楽程度の話は、素直に話しても問題ないと、考えを変えた。

ただ、源氏とか京都の話は、絶対に言わないと決めている。

「はい、昨年の秋、10月頃まで、その後は受験もあったので」


佐保

「納得、でも全然、音楽の授業どころではない」

麗は下を向く。

「いえ、単なる遊びでしたので」

麻央が麗に尋ねた。

「音大とかは考えなかったの?」

佐保も同じことを思ったようで、麗の顔を見る。


麗は、答えにためらう。

「いえ・・・そんな環境ではなく」

「えっと・・・経済的との意味ではなく」

麻央

「と・・・言うと?」

麗の顔は暗い。

「とても両親が認めるとは思えないので」

「音楽家などという、不安定な職業は、との意味で」

佐保

「コンクールとかは出たことがあるの?」

麗は首を横に振る。

「いえ・・・ピアノの先生は、何度も勧めてくれたのですが、両親、特に父親が厳しくて、一度も出ていません」


麻央は首を傾げた。

「その家ごとに、教育方針があるから、余計なことは言うべきではないけれど」

佐保は難しい顔。

「それは、麗君、辛かったよね」

「せっかく練習して、上手なのに発表する機会もないなんて」


麗は、少し困った。

目の前の二人が、暗い顔になってしまったのは、自分が余計な話をしてしまったことに原因があると思う。

麗は、謝ることにした。

「あ・・・すみません」

「どうでもいい話でした・・・つい、お聞き苦しい話をしてしまいました」


麻央が、真面目な顔で麗を見た。

「なんとなく麗君がわかってきた」

「すごくいろんな才能がある」

「源氏、文章力、香り、様々な知識・・・音楽にしても」

「でも、それを、あからさまにしない」

「というよりは、自分で隠してしまっている」

「隠さなければならないと、思い込んでいる」


麗は、図星なので、ただ黙るのみ。


佐保も、麻央に続いた。

「ご両親の呪縛が強いのかもしれない」

「言い方が悪かったら、ごめんなさい」

「麗君を目立たせたくない・・・そんな感じ」

「親御さんの中には、どんな手を使ってでも、子供を世間に売り出す場合もあるけれど」


麗が、また答えに困っていると、麻央が突然、話題を変えた。

「ねえ、麗君、明日、鎌倉に行って欲しいの」

「うん、日向先生のご自宅」


麗としては、話題が変わったことにホッとした。

そして、そのまま頷いている。

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