第67話麗の不思議な魅力 「みやび」とは
「麻央!何してるの!」
「麗君が困っているじゃない!」
佐保は、いきなり怒った。
麻央は、その声にハッとして、麗から離れた。
「あ・・・ごめんなさい・・・麗君・・・」
「何で、こんなことになったのか・・・」
少し涙ぐんでいる。
佐保も麗に謝った。
「ごめんなさい、麗君」
「麻央は、こんなことする女ではないけれど」
「麗君に引き寄せられてしまったみたいで」
麗は、ようやく身体の自由が戻ったので、落ち着いた。
「いえ、お気にせずに」
「ちょっとした、お戯れと思うので」
麗は、単なる遊びと思うことにした。
そもそも、極力、女性とは当然、他人との接触を嫌ってきたこともあるし、そんな風変りな自分が、遊ばれただけだと思う。
地味な田舎者の俺に、都会の、それも自由が丘育ちのお嬢様が真面目に興味を持つなど、本当に冗談でしかあり得ないのだから。
「麗君・・・」
麻央は、まだ申し訳なさそうな顔。
「お気になさらずに、本当に」
麗は、麻央の申し訳なさそうな顔に、自分のほうが申し訳ない。
佐保が、そんな麗に声をかけた。
「麗君はね、不思議な魅力があるの」
「何ていうのかなあ・・・」
「私だって、ドキッとする何か・・・」
「野卑な人では、絶対わからない魅力」
「みやび・・・そんな魅力」
麻央が補足した。
「みやび・・・語源は都の人、もっと深く宮の人」
「麗君に漂う気って言うのかな、それがある」
「すごく深くて、特定の女性に、狂おしいほどの情念を燃え上がらせるような」
麗は、これについては、何も返さない。
しかし、九条のお屋敷であった事を思い出す。
「恵理さんも、結さんも、旧宮家か」
「あの二人に襲われて、怪我させられて・・・」
それを思い出すと、そんな「みやび」などは、ないほうが安全と思う。
佐保が、麗の前に来た。
「私だって、麗君を抱きしめたい」
「こうして、目の前に立つだけで、息が苦しいもの」
佐保が言う通り、佐保の豊かな胸が上下しているのが、セーター越しではあるけれど、はっきりとわかる。
麻央が、潤んだ目になった。
「先生と生徒では駄目なの?」
「私、おばさん過ぎ?」
佐保は、困ったような顔になる。
「麻央、麗君の気持も考えてあげて」
「麗君の気持から、麻央は先生という立場は消えないの」
「絶対に対等にはならないよ」
佐保の胸の上下が大きくなった。
「麻央はともかく、私も、麗君が本当に欲しくなってきた」
麗は、途方に暮れた。
何とか、この場を逃れる口実を考える。
「鍋料理を」と言いかけたけれど、客人の立場、それは言えない。
その麗の身体に向かって、佐保の腕が伸びている。
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