第49話麗は高橋麻央に誘われ、麗は山本由紀子を誘う

高橋麻央は、麗の困惑顔が面白い。

「こういう若い男の子をつつくのも、なかなか楽しい」

「よく見ると、肌も白くてぬめぬめと・・・お公家さんみたい、お顔もきれい」

「研究室に一おいて、愛でて楽しむのもいいなあ」

「源氏やら、香料やら、すでにいろんなことを知っているから、かなりな助力になる」


麗は、少し考えて答えた。

ただ、その答えは麗らしく、無難で地味なもの。

「急なお話であり、少々考えまして、後日お返事をさせていただきます」


高橋麻央は、少々不満そうな顔をするので、麗は頭を少し下げる。

「少し、所用がございます、先を急ぎますので」

そこまではよかった。

「連休明けには、お返事できると思います」

つい、余計なことを言ってしまったと思う。

この言い方は、高橋麻央に、「いらぬ期待」を抱かせかねない。


しかし、高橋麻央は、その「いらぬ期待」を抱いてしまったようだ。

「わあ!ありがとう!じゃあ、連休楽しんでね!」

にっこり笑って、握手まで求めて来る。


麗は「はい」と握りなおしてしまったけれど、「これは社会的儀礼」に過ぎないと思い、ようやく高橋麻央から解放されることになった。



麗は、神保町に注文した本を受け取るべく、廊下を歩きだしたけれど、突然、思い出したことがあった。


「そうだ、図書館司書の山本由紀子さんに、お礼をしないとなあ」

「かといって・・・お礼の品もない」

「でも、ある意味、命を救ってもらった」

「それも、有休を取ってまで」


他の人との関係を持つことを好まない麗であっても、義理に薄いということではない。

「言葉だけだとなあ・・・何か渡せるものはないか」

「アパートにはお香があるかな、京都の香料店から届いた・・・」

「それにしよう、ある程度は高価なもの、図書館司書ほどの人、お香の知識もあるだろう」


麗は、そこでまた考える。

「大学図書館で、そのまま渡すのも、それは失礼ではないだろうか」

「どこかで、キチンとした席を設けて、そこでお礼かたがた渡す」

「吉祥寺の香苗さんの料亭がいいかな、桃香も事情を知っているから、何とかしてくれる」

麗の結論は、早かった。

そのまま、大学図書館に出向き、司書嬢山本由紀子に、その旨を伝える。


山本由紀子は、本当にうれしそうな顔。

「あら・・・そんな・・・いいの?」

「当然のことをしただけなのに」

「あの、料亭を知っているけれど、相当格式も高いし、お値段も」


麗は、首を横に振る。

「いえ、知りあいの店です、この間の桃香もいます」

「それより何より、山本さんは僕の命の恩人なんです」

「僕の気持を受け取ってください」


山本由紀子は、その麗の言葉を聞きながら、心も身体も、ほんわか状態。

「うーん・・・いい子だなあ」

「最初はとっつきにくくて、ツンツンしていたけれど」

「やる時はやるんだね・・・この子・・・」

「年下の彼氏もいいかも」


そうなると、簡単にOKを出す。

「予約の関係もあるでしょうから、取れたら連絡してね、麗君」

「夜はあけて待っています」

ついでに、思いっきりウィンクをすると、能面の麗の頬が赤くなる。


麗は、また頭を下げた。

「それでは、またご連絡いたします」

山本由紀子は、麗が図書館から立ち去ると思ったので、少し聞いてみた。

実は、もう少し引き留めたかったようだ。


山本由紀子

「麗君、これからアパートに?」


麗は素直に答えた。

「はい、神保町に頼んであった本を受け取りに、古代ローマ帝国歴史大全です、どうしても手元に置きたかったので」


山本由紀子は、その麗の言葉で、突然笑いだしている。


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