第41話桃香の激情

「よくわからないけれど、桃香ちゃんはよく抱きつく」

麗は、桃香から、子供の頃から、何度も抱きつかれたことを思い出す。

笑っても泣いても、すぐに抱きついてくる。

抱きつき魔なのかと思ったほどだった。


麗は桃香に抵抗を見せる。

「どうして泣きながら、怒りながら抱きつく?」

「それに苦しい、力強すぎ」


しかし、桃香は抱きつく力を緩めない。

文句も言い続ける。


「うるさい!麗ちゃん!」

「麗ちゃんが冷たいから、抱きつくの!」

「絶対に離したくないから抱きつくの!」

「こんな・・・ガリガリじゃない!」

「骸骨なの?麗ちゃん」

「うちのお肉を感じなさい」

「どや、大きくなったやろ?」

「自信あるよ、ほら!ほらほら!」

桃香は、その「自信ある」と言う胸を、麗に押しつけはじめる。


麗は焦った。

ここでも抵抗を見せる。

何とか逃れようとするけれど、ますます桃香の胸は麗の胸に密着する。


桃香

「逃がさんって言ったやろ?」


麗は抵抗をあきらめた。

桃香の心臓の動きまで、自分の胸の感触でわかる。

小さな頃にも、こうして抱き合って、お互いの心臓の音を確かめたことを思い出す。


「うん、確かに桃ちゃん、大きくなった」

「心臓の音もドクンドクンしてる」


桃香は、耳まで赤い。

口調も突然、変わる。

「確かって・・・恥ずかしいやん・・・」

「でも、うれしい」

桃香は、その顔を麗の肩につけた。


麗は、少し強めに桃香を抱く。

そして桃香に聞く。

「ねえ、香苗さんが来るんでしょ?」

「こんな姿見せられないって」

麗としては、そう言えば、桃香が落ち着くと思った。


しかし、桃香は麗を抱く力を全く弱めない。

「いや、来ない」

「うちが、全部面倒見るって、出て来た」

「だから、このことも、香苗さんの公認や」


麗は、「このこと」が気になった。

桃香と抱き合うのが、公認?

子供の頃のじゃれ合いのような抱き合いとは違う。

今の年齢で、そのまま発展すれば、男女の関係にも至りかねないのだから。


桃香の手のひらが、次第に下に動く。

そして、麗のお尻をしっかりと抑える。


麗は、また焦る。

「桃ちゃん、その手・・・何?」


しかし、桃香は答えない。

ただ、その顔全体を赤くして、麗のお尻を強く抑えるのみ。


麗は再び、桃香に声をかけた。

「どうしたの?桃ちゃん」

「黙っているとわからない」


次の瞬間だった。

桃香の唇が、麗の唇をふさいでいる。

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