第20話麗は古代ローマ帝国講義を受講、強い興味を持つ。

「まあ、よく怒る」

麗は、呆れるけれど、アパートから一歩出れば、いつもの能面が復活。

ひたすら、能面のまま、登校。


午前10時半からの「古代ローマ帝国」講義の大教室に着席、教科書を開く。

周囲のチャラチャラした学生などには、全く興味がない。

やけに真面目ぶった学生もいるけれど、どうでもいい。

化粧やら安価な香水をつけ過ぎたミニスカの女子大生が前を歩いて行くけれど、興味が無いのを通り越して、吐き気がする。


教科書に目を通していると、担当の大学教授が入ってきた。

年齢で言えば、50代か。

いかにも、やつれた雰囲気のスーツで、顔もさえないけれど、そのほうがよほど落ち着く。

講義は、教科書を棒読みが主体。

時々、マニアックな解説が入る。


「古代ローマにおいては、都市計画において下水道の整備を、上水道よりも先に行った」

「上水道については、後々の講義で述べるけれど、何故、下水道だったのか」

「不潔な都市は、ヤブ蚊が多い、蠅も多い、疫病が発生しやすい」

「そうなると、他国から攻められた時、あるいは他国を攻める必要がある時、病人ばかりでは十分な兵力を確保できなくなる」

「市民の健康管理は、国の健康管理であって、安全管理に絶対不可欠なのであります」


・・・・・


様々、講義が続くけれど、麗は眠気をこらえて、懸命に聞く。


「日本の古典文化が優れているといっても、こんな市民の健康管理などという発想そのものがない」

「皇族やら貴族、武家の時代には武家も加わるけれど」

「支配者と被支配者があって、ほぼ支配者側のための政治」

「市民を不衛生と貧困に押し込め続けるだけで、何ら国全体の価値を高めるインフラ整備の発想がない」


麗は、その時点で思った。

「すでにある程度わかる源氏物語の研究やら古典文化の研究など、俺にとってどれほどの学ぶべき価値があるのか」

「古代ローマ、あるいは古代ギリシャから始まって、現代ヨーロッパ史に打ち込んだほうが、面白いのではないか」


昨日の日向先生、高橋麻央の顔が目に浮かんだ。

三井芳香は、浮かばない。

「あんな連れ込みして、半強制的に研究しろとは何事か」

「俺にも学ぶ自由がある、それを無視される理由はない」

「食事に呼ばれたことは、失態だった」

「けれど、相手から誘ったこと、俺が望んだわけではない」

「あくまでもお付き合いだ」


そう思うと、麗はますます「古代ローマ帝国」を核にした勉強に気が向く。

そして、源氏物語やら古典文化研究に励むなどの意思は皆無となった。



地味にして、麗には重要な思索の時間となった「古代ローマ帝国」の講義は、時間厳守にて終了となった。

麗は昼休み定例の場所、大学図書館に入った。

そして探す書籍は、古代ローマ帝国関連のもの。

やはり人気の高い研究分野、数多くの書籍を、あっさりと見つける。


その数多くの書籍の中で麗の目を捉えたのは、「古代ローマ帝国歴史大全」という分厚いもの。

年代別に、事実を細かく記載してある。

そして、もう一つ目を捉えたのは、かのフィレンツェのマキャベリ氏の力作「ローマ史論」。

少し読んだだけでも、文意が深く、現代の政治にそのまま置き換えても使えそうな警句が並べられている。


麗の決断は、こういう興味のある時は早い。

「一旦、借りて帰る。そしてアパートで読みふける」

「もし神保町の古本屋街に在庫があれば、買える価格であるならば、買って購入する」


麗は、愛想のいい司書嬢に早速借り入れ手続き、午後1時からの英語の講義は、ほぼ居眠りで過ごし、講義終了後は、脱兎の如くアパートに直帰した。

尚、麗は、大学の廊下ですれ違った三井芳香の怒り顔は、全く見ていない。

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