第46話 奇剣 ショットガンウエディング

 眩いほどの背徳を有し、暗黒の魔道を極めた男がいた。


 今となっては、果たして人だったのか……それとも人の形をした他の何かだったのか……


 確かめる術は残っていない。


 膨大な魔力とモンスターを統べる秘術を持ち、世界に宣戦布告を開始した男。


 それは魔王だった。




 激闘――――否。


 死闘と表しても、まだ生ぬるい血で血を拭う戦い。


 それを制したのが勇者アッシュである。




 だからこそ、あれが魔王が所持していたはずの魔剣だという事がわかる。




 「しかし、なぜ……」とアッシュは呟く。




 唐突に地面から魔剣がニョキニョキと生えて出てきたのか理解はできない。


 だが、その理由が単純だ。




 ドロップアイテム。




 モンスターも倒すと、手に入る武器。


 どこに保有していたのか? なぜ劣悪な環境でありながら、新品同然なのか?


 今だに人類が答えと出せずにいる――――ある種、ダンジョンの神秘をも言われる現象だ。


 そして、ダンジョンの力を有した亮にとって、目の前の相手を葬る最善手となるアイテムを作成する事など、簡単な事だった。




 魔剣と呼ばれていた剣の正式な名前は――――




 『奇剣 ショットガンウエディング』




 異世界の言葉で、予期せぬ結婚という意味の剣の力は――――




 無機物に魂を与える力だった。




 亮が剣を抜き去ると同時に地面が盛り上がる。


 岩と木々。作成したのはゴーレムだ。


 しかし――――




 「何だコイツは? ただのゴーレムではない。いや、そもそもゴーレムなのか?」




 数百を超えるダンジョンに挑んだ勇者アッシュですら初見の怪物。


 僅かに見え隠れした動揺と不安。それを亮は小さく笑う。




 「名前はウッドゴーレム。お前を倒すためだけに生まれたモンスターだ」




 頑丈な岩の肉体を植物の超回復能力で補強。


 それも5体同時作成。




 亮にはアッシュの考えが読める。


 脳裏に浮かんでいるの撤退の二文字。


 しかし、すぐさま行動に移さないのは負傷者がいるため……


 撤退をするために負傷者であるロザリーの治療が最優先と考えているのだ。




 つまりは時間稼ぎ。




 しかし、亮の予想に反してアッシュは積極的に攻めてきた。


 まるで瞬間移動のように踏み込み。


 一種でウッドゴーレムの足元に接近したアッシュは、そのまま足を狙い切り払う。


 いくら頑丈とは言え、鋼鉄すら切り裂くアッシュの腕力と聖剣の切れ味は、呆気なくゴーレムの足を切断。


 バランスを崩したゴーレムが倒れた。


 倒れたゴーレムの頭部に飛び乗ったアッシュが剣を突き立てた。




 「……まずは一体!」




 二体目のゴーレムはアッシュを掴み、握りつぶそうと腕を伸ばした。


 すれ違いざま、飛んだアッシュはゴーレムの腕を切断する。


 しかし、切断した腕の後から大量の蔦(ツタ)。アッシュを束縛するためだけに放たれる。


 瞬時に全身が緑に覆われ、アッシュの姿は見えなくなった。




 「……やったか?」と亮の呟き。




 「まさか……だろ?」とアッシュから返答があったのは予想外。




 緑の塊から光が漏れて……爆発。


 煙と光の中から飛び出したアッシュは、自身を捕縛したゴーレムの頭部を切り落とす。




 「二体目……」




 それを亮は笑う。


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る