第40話 勇者がきたりて

  『トマト』


 赤茄子と書いてトマトと読む。その漢字からわかるようにナス科の植物。


 高温を好み、低温にも強い。


 その反面、病気に弱く、育てる難易度は高い。


 元々、高温の乾燥地帯で自生が発見されたのだが……


 多湿の日本で育てるのは相性が悪く、難易度が高い。


 では『こちら側』のダンジョンで育成する植物としてはどうか?




 無論、相性は悪い!




 なんせ、地下だ。ジメジメと湿気も強い。


 そんな場所で亮はトマトの栽培に成功していた。


 亮は、育てたトマトを手に取り――――持っただけで分かる瑞々しさ!――――口へ運んでいく。 


 噛み締めると水分と共に果実のような糖度を感じる。何よりも、高い栄養価が全身に広がっていく感覚。




 「成功だ!」




 高難易度のトマトを完成させた亮は、いよいよ次のステージに挑む事を決意する。


 次のステージ――――




 そう、稲作。


 米作りである!




 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・




 町はざわめきに包まれていた。




 ざわ・・・ ざわ・・・




       ざわ・・・ ざわ・・・




 ただ3人の旅人が道を歩いている。


 それだけだ。 それだけで、すれ違う人は足を止め振り返る。


 先に気づいた人は、素早く道端に移動して彼等に道を譲る。


 彼等が通り過ぎた後に、皆口をそろえてこう言った。




 「ありゃ、何者だい?」




 その一行は、人々の視線など慣れ親しいのか、気にした様子もなく歩を進めた。




 「……ここか」と先頭の男性が呟いた。


 その視線の先は冒険者ギルド。そのまま中へ入ると冒険者たちの反応は町人たち以上に如実だった。


 全員が、椅子から飛び上がり、武器を握り締めた。


 何かの間違いで、街中にボス級魔物が現れた。そう錯覚するほどの戦闘能力を保有している。


 その人物が人間だとわかっても暫くは、ピリピリとした緊張感はぬぐえなかった。


 やはり、ここでも脳裏に浮かぶ言葉は1つ。




 「一体、何者か?」




 しかし、その疑問も直ぐに明らかになった。




 「賢者 マーガレットから依頼を受託した。 勇者アッシュだ」




 シーン




 一転してギルド内のざわめきは消え去り、水を打ったのような静けさが支配した。




 『勇者アッシュ』




 先の戦争で魔王討伐の立役者。


 白髪に金色の瞳。 鎧は軽装。ただし、背中には大剣。




 勇者が来た。


 冒険者たちは、いつの間にか武器を納め、両拳を握って興奮している自分達に気づく。


 そして、次に沸いた疑問は――――




 「一体、どんな依頼内容なんだ?」




 彼等は想像にもできない。


 その依頼が、初心者向けダンジョンの攻略依頼だと言う事を――――


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