第34話 爆破 そして――――

 冒険者ギルドが認定するランク。


 それは冒険者の強さで決められているものではない。


 細かく言えば、多くの審査基準があるのだが主になるのは―――― 




 依頼の達成度


 ギルドへの貢献度




 この2つである。


 パトリック兄弟は、この依頼の達成度を利用した。


 高難易度の討伐系の依頼を受けまくり、達成し続けてきた




 彼等の戦歴スコアは――――




 龍種 5匹 (うち2匹は究極龍)




 キメラ 23体




 魔族 110人




 etc.etc.




通常のSランク冒険者を圧倒する討伐成功率を叩きだした。




 さて――――




 パトリック兄弟は冒険者に憧れる普通の若者だった。


 冒険者になれる年齢に達すると、すぐに登録。


 しかし、彼等は壁にぶつかる事になる。


 普通の若者ゆえの戦闘技術の低さ。 


 剣術は自己流。魔法についての知識は拙さ。


 本来なら彼等の選択肢は2つ。


 誰かの師事を願うか、田舎に帰るか――――


 だが、彼等は第3の選択に委ねた。




 正気を捨て、狂気に塗れる。




 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・




 閑話休題 現代に戻る。




 気配を消していたパトリック兄弟は、一瞬の隙をついてオーガさんに抱きついた。


 彼等は透明な容器を背負っている。 中には液体が揺れて見える。


 この液体の正体は爆薬である。


 パトリック兄弟がSランクまで登り詰めた方法。


 その狂気の正体は――――




 自爆である。




 ダンジョン内なら死んでも蘇る。


 なら死ねば良い。 自分の体を相手に貼り付け、強烈な爆発で倒せばいい。


 それがパトリック兄弟の自爆殺法。




 身に着けたのは暗殺者アサシンのように気配遮断のスキルのみ。


 爆破の相乗効果を起こすため、0.1秒のズレもないタイミングは、兄弟ならではの意思疎通能力。


 背中に爆薬を背負うと自身の肉体が盾として成立してしまうと知り、爆風の流れをコントロールするような仕掛けてを加えに加え……




 一瞬、空気が歪んで見えた。


 爆破により生じる衝撃波は爆破そのものよりも周囲に伝わるのが早いためだ。


 そして、日常生活で聞くことない異音。




 ちゅーん




 そして爆破――――




 閃光と衝撃破。


 そして、爆破音によって三半規管は乱れに乱され、誰もその場に立っていられる事はできない。


 地面を抉り取り、ばら撒かれた石礫いしつぶては弾丸のような殺傷力を得ている。


 そんな中、1人賢者さんは――――




 (想像よりも爆破の威力が低い?)




 モクモクと立ち上る煙の隙間。


 パトリック兄弟は爆散したのか、体が残っていない。


 しかし、爆破の中心部にいたはずのオーガさんは、うつ伏せに倒れているものの体に大きな損傷を見ぬけられず……


 立ち上がった。




 「ど、どうして? ドラゴンの鱗ですら貫く爆破でどうして!」




 「そんな事は知らない」と立ち上がったオーガさん。


 彼女は力なく前に進みながらも呟く。


 体内まで焼かれたのだろう。彼女が喋るたびに口内から黒煙が吐き出される。




 「ただ、私はお前を殴る。それだけは――――ケジメをつけさせてやる」




 オーガさんは強く拳を握り締めた。


 その気迫は賢者さんを圧倒する。 彼女は、それに抗うために杖を構える。




 「この死に損ないの体で!」




 杖の先。魔力により光が灯り、魔弾が発射され――――




 「待ってくれ」




 オーガさんと賢者さんの間に割って入ったのは――――


 亮だった。




 「そ、そこを退きなさい。それを倒すには、い、今しかないのです」




 「いいえ、退きません」と亮の口調に揺るぎはなかった。


 それは撃たれる覚悟もある一方で、賢者さんは自分を撃たないという信頼も同居していた。




 「俺は今、彼女と一緒に住んでいます。賢者さんが人の世界に俺を連れ出したいという気持ちもわかりませんですも俺は――――」




 一度、言葉を区切ると振り返り、そのままオーガさんに――――


 口付けをした。




 


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