第33話 最強最弱のSクラス冒険者 パトリック兄弟
この後、亮は深く後悔することになる。
確かに――――
なんら、前触れもない。脈絡もない。伏線もない。
予兆も前兆もなかったかもしれない。
だが、予測は十分にできたはずだ。
賢者さんがどうして単騎でありながら、ダンジョン内で大立ち回りを行ったのか?
そして、ここへ突入するタイミングで閃光弾ではなく、催涙弾だったのか?
それらのヒントで気づけたはずだ。
――――否。気づかなければならなかった。
少なくとも亮は、そう考えている。
賢者さんが、単騎ありながら派手な大立ち回りと行った時点で、誘導目的だと考えるべきだった。
閃光弾による敵の無効化目的ではなく、催涙弾が使用されたのは、仲間の進入を優先させる行動だったと見抜けたはずだ……と。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
――― 3日前 ―――
冒険者ギルド付近の飲食店。そこに賢者さんはいた。
目的は打ち合わせ。
ダンジョン内に住む少年の救出計画の打ち合わせだ。
賢者さんは手にした札を見つめている。
連絡用の魔法がかかっていて、同じ札を持つ者と会話はもちろん、相手の居場所すらわかる品物だ。
賢者さんは、これと同じ物を亮に渡している。 居場所が把握できるとは伝えずに。
なぜ、亮を監視するような真似をしているのか?
賢者さん自身もわからない。
恋心……そう呼ぶには重い。あまりにも重過ぎる。
もしも、この行為が恋愛感情によって推し進められている暴走行為だとしたら……
だとしたら、自分の行いはストーカー行為そのものであり、正当化されるものではない。
しかし、不思議と彼女には、なにか……こうしなければならない……定めのような物を感じていた。
彼は、始めて出会ったチート能力者。
世界に変革をもたらすと言われながらも、『こちら側』について無知であり無垢な存在。
そんな彼を前にして、彼女に芽生えた目的意識の正体は――――
『彼を導かなければならない』
ある種、傲慢とすら言える感情。 しかし、それは――――
自らの腹を痛めて生み出した子供に対する母親が持つ母性本能に近いのかもしれない。
彼女は、そんな事を考えていた。しかし、声をかけられて現実に引き戻された。
「あの依頼者の方でしょうか?」
ブラウンの髪と瞳を持つ2人組。
席に座る賢者さんに対して、腰を大きく曲げている。
相手の機嫌を伺うように表情を覗き込むためだ。
2人組の名前はパトリック兄弟。
初対面の人間に「どうしてそんなに卑屈なのか?」と印象を抱かせるような兄弟である。
それもそのはず、2人は――――
冒険者最高ランク Sクラス
国内で10人に満たない最上位冒険者だ。
そんな2人を前に賢者さんは――――
「はい、どうぞ座ってください」
そう促しながら、2人を観察する。そして――――
(噂通り……本当に弱そうなのね)
そんな感想を持った。
それはおかしな事ではない。
「僕ら弱そうに見えるでしょ……実際に弱いのですよ」
兄の方がそう言った。 朗らかな表情だ。弟の方も「うんうん」と頷いている。
もしかしたら、初対面の依頼主に対して使っている『会話の掴み』というやつかもしれない。
賢者さんは――――
「いえいえ、そんな事は……」
手をパタパタをさせて否定した。
しかし――――
『パトリック兄弟は弱い』
それは周知の事実だ。
例えば――――
賢者さんは、冒険者ランクで言わばCクラス。
しかし、冒険者に転職して日が浅いから低めのCクラスであり――――
宮廷魔術師の過去。特殊部隊として身に着けた対人戦闘能力を差し引くと、格上のBクラスやAクラスの冒険者ですら不覚を取りかねない戦闘能力がある。
その賢者さんが弱いと思うパトリック兄弟の戦闘能力はDクラス……下手をするとEクラスに分類している。
さて――――
どうして、そんな弱者であるパトリック兄弟が冒険者最高ランクであるSクラスなのか?
当然、それには秘密がある。
彼等2人が『最強最弱のパトリック兄弟』と二つ名を持つ秘密があるのだ。
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