第11話 賢者さんたちとの再会





 「あやうく、不運バットラックダンスっちまうところだったぜ」




 障害物に溢れる森林コースをウィリー走行と連続ジャンプで攻略していくオーガさんの運転スタイル。


後部座席タンデムシートに座る亮に地獄を見せた。




 そんなこんなで町である。


 亮は、この世界に来て初めてダンジョンから出た。


 どうも中世ヨーロッパ風の世界だと、かつて知り合った賢者さんが聞いていたが……


 バイク――――いや、鉄騎馬みたいな乗り物があるなら――――




 『実はスチームパンク的な世界でした!』




 みたいな落ちがあっても驚かない心持だった。


 しかし――――それでも亮は驚いた。




 町の中心を通る道は、オーガさんの鉄騎馬と同じタイプの乗り物を何台か見かけた。


 他にも馬車らしき乗り物。 未来の自動車のイメージみたいに宙に浮かぶ乗り物。


 それらは荷物を担いだ男が、自分の足で追い越していく。


 たぶん、飛脚的な職業の人だろう……




 「混沌カオスだ」




 驚かせたのは乗り物だけではない。


 確かに建物は中世ヨーロッパ風の建築物が多い。


 他には酷くカラフルな建物もある。 


 異世界と言うより、まるで近代美術モダンアートの世界に迷い込んでしまったかのように錯覚してしまう。


 ピンク色の建物に赤色のラインが波打つよう書かれ、その上に緑色で×が書かれていたり……




 「あの、この世界の町ってこんな感じなのですか? ここが何かの特区みたいになっているとかじゃなくて……」




 思わず、オーガさんに質問した亮だったが、返事は――――




 「さぁ? 人間の町は、ここにしか来た事がない。でも、ここが妙な感じがするのは私も同じだ」




 そのまま、2人は駐車場らしき場所でバイクを置き、徒歩で町を進む。


 すると――――




  「あっ! チートくん! 生きてた!?」




 何か聞き覚えのある声。


 声の方角を見ると、亮に迫り来る白い影。




 「なっ!」と驚きと共に構える亮。


 だが、しかし――――




 「き、消えた!?」




 感じたの浮遊感のみ。


 超低空タックル。 そう判断できたのは倒れた後だった。




 「よかった! 良かったよぉ! 食べられちゃって二度と会えないと思っていたよぉぉ!」




 両足にしがみ付き、叫ぶ女性。


 まるで「これは自分の物だ」と主張するかのように亮を足に頬を擦り付けているのは――――




 「ちょ、ちょっと賢者さん! 止めてください。こんな町中で!」




 そう賢者だった。




 「どうする? 殺気がなかったから放っておいたが……とりあえず殴殺しておくか?」




 隣からピリついた口調のオーガさん。




 「殺さない。お願いだから殺さないであげて! たぶん、この人。錯乱しているだけだから!」




 ざわざわと周囲の通行人も足を止めてざわめき始める。


 注目を浴びすぎている。俺だけなら兎も角、オーガさんの正体がバレるのは不味い!


 そう判断した亮は、「賢者さん、離してください」と賢者の頭部を押して離れようとする。




 「この人、こんなに腕力あったのかよ」




 万力のような腕力で固定されて、ピクリとも動かない。




 「どうする? やっぱり――――」


 「いや、暴力はなしでお願いします」




 「わかった。でも、わかってほしい。私の忍耐力が試されているのだ」


 そう言って、オーガさんは天を仰いだ。




 (いや、なんかキャラが変わってますよ、オーガさん!?)




 しかし、依然として賢者さんは頬擦りを止めない。


 なぜか、わからないが、このままでは本当にオーガさんが暴れ始めそうだ。


 よく見たら、小刻みに震えている。




 どうする? どうやって脱出する? この状況から……




 そんな時だった。




 「すまない。通してくれ」




 野次馬を押しのけて現れたのはピンクのおじさん。




 「すいません! 助けてください! リーダーさん!」




 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・




 あの後、あっさりと賢者を引き剥がしたリーダー。




「意図的に状態異常を起こす魔法を酒に施していたみたいだ。本当に呆れたやつだ」




 そのまま瓶を取り出すと、彼女の口に琥珀色を流し込んだ。


 どうやら、状態異常を治すアイテムのようだ。




 「暫く、落ち着かせれば元に戻る。しかし、ここでは人目につきすぎるな。移動してもいいか?」




 亮たちの返事を待たず、リーダーは賢者を肩に担ぎ、そのまま歩き始めた。


 余計に目立つのでは? と疑問も浮かんだが、意外と周囲の人たちは無関心だった。


 亮とオーガさんが連れて来られたのは、賢者が飲んでいた店。


 つまり、冒険者ギルドの目前だった。


 オーガさんにとって敵地の真ん前のはずだが、彼女に動揺の様子はない。


 それどころか、パンケーキらしきスイーツを幾つも注文して、楽しんでいた。




 「ん? なにかついてるか?」




 「頬についてるよ」とオーガさんの頬についていた食べかすを取る。


 「おぉ! ありがとうよ」とオーガさん。




 そんな様子に正気を取り戻した賢者さんは、ショックを受けたかのような青い顔をしていた。


 もしかしたら、状態異常の副作用かもしれない。


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