第10話 バイクと町へ!


 「外に出たいだって? それも町に行きたいだと?」




 食料の生産。そのために畑で野菜を作る案だが、足りない物が多すぎる。


 亮が、そう説明すると……




 「構わないよ。私もついていこう」




 あっさりと許可が下りた。




 「ん? どうした? そんな意外そうな顔をして?」


 「いや、思っていたより簡単に許してくれたので……」




 亮は、少なからず揉めると思っていた。


 ダンジョンから逃げ出すための詭弁だと疑われても仕方がない……と。


 しかし、オーガさんは亮が逃げる事など、微塵も思っていなかったらしい。


 それを指摘すると――――




 「……え? 逃げるつもりなのか?」と普段は見せる事のない、不安が混じった表情。




 「いやいや、逃げない。逃げない。……ただ」


 「ただ?」


 「信用されているんだなぁ……って思ったんだ」


 「何を、当たり前のことを? 番つがいの夫婦なのに、相手を信用するのは当然だろ?」




 全く疑う事のないオーガさんの言葉と表情に、亮は「ぐはっ……」と精神的なダメージを受けた。




 そんなやり取りがあって、ダンジョンの外へ――――町へ出かける事になった。




 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・




 「ん? 準備はできたぞ」




 着替えが終わったオーガさんが現れた。


 普段の露出高めの服とは真逆。フワリとした白いケープを身に着けていた。


 人間に変装するため、顔には化粧が施されている。


 しかし、角つのを隠すために頭からスッポリとフードを被っているのだが、もったいないと思ってしまう。




 「どうだ?」と聞いてきたオーガさんに亮は――――




 「あっ、うん。似合っている。か、かわいいよ」と顔を赤く染め、柄でもなくオーガさんを誉めた。




 「いや、魔物とバレそうな箇所はないか? という意味だったのだが……そうか。可愛いのか」




 ケープの裾をつまんで、軽く引っ張るような動作を繰り返すオーガさん。


 その様子に亮は、不覚ながら愛らしさを感じてしまった。




 「さて、お金はどうするか?」とオーガさんは住処の奥へ進む。


 そこにあったものは――――




 銅貨、銀貨、金貨の山。 それだけではない。


 金と宝石で装飾されたナイフや鎧。実用性は皆無としか思えない装備品の数々。


 要するに金銀財宝がそこにあった。




 「こ、これ! どうしたんですか!?」




 この国の貨幣価値はわからない。しかし、尋常ではない金額と言うのは簡単に想像できてしまう。




 「ん? 冒険者から奪った」




 オーガさんは簡単に言った。


 そのまま、一掴みすると巾着きんちゃくのような袋へ無造作に入れていく。




 (いやいや、これを目的にダンジョンに来る冒険者が多いんじゃ……)




 そんな事を考えているとオーガさんの準備は終わったらしい。




 「それじゃ行くぞ!」




 そう言うと、彼女は壁に手を当てる。


 すると『チーン』とベルが鳴ったかのような音。


 その直後、壁が割れて空間が現れる。 


 隠し扉!? と亮は一瞬、驚く。しかし、すぐに違うという事に気づく。




 「これって、もしかしして、例のエレベーターですか?」


 「そうだ。 これで一気に外に出れる」


 「本当にあったんだ……」 




 そう言いながら足を踏み入れると亮は険しい顔に変わった。


 それに気づいたオーガさんは動揺して――――




 「ど、どうしたんだ? 何か、嫌なことでもあったのか?」


 「なんでもありませんよ。いや、なんでもない……というわけではないのですが……少し、考えごとをしてただけですよ」




 「なんだ! そうか、心配したぞ」と胸を撫で下ろすオーガさん。


 しかし、亮が考えていた事は――――




 (まずいなぁ。外とボス部屋に直通のエレベーターが実在するなんて……)




 冒険者に発見されたから、簡単に襲撃を受けてしまう。


 そんな不安が胸に過ぎっていたのだった。




 やがて、エレベーターは動き出し、1分も満たない時間で外についた。


 外に出るとエレベーターは閉じた。


 まるで壁と一体化したかのように外壁と区別がつかない。




 (なるほど、一見したらわからないのか……けど、それで安心できるわけじゃ……)




 「おい、何を考えているのかわからねぇけど、とりあえずコレを被れ」




 茂みの中を、なにやらゴソゴソと漁っていたオーガさんが、何かを投げて亮に寄こした。




 「これって、兜ですか?」




 確かに、それは、何処からどう見ても兜だった。


 しかし、わからないのは町に向うのに、どうして兜が必要なのか?


 だが、すぐに答えはわかった。


 それは兜ではなかった。 


 正確に言うヘルメット。顔全体を保護するフルフェイスタイプのヘルメットだ。




 「これに乗るのに危ないからな」




 オーガさんの横にはバイクが――――


 つまり、自動二輪車や単車と言われる乗り物があった。


  ハレーのような形状。 


 異常なのはタイヤの太さ。まるでトラックのタイヤを強引に履かせたような違和感。


 色は、オリーブドラフ。


 軍用車両や重火器に使用されるカラーリングだ。


 タンクやフェンダー部分に塗られている。


 無骨で男らしいを強調しているかのようなバイクだった。




 「――――!? いや、なんでバイクがこんな所に?」




 驚く亮に対してオーガさんは――――




 「? バイク? 何言ってるんだ?」


 「え?」


 「これは鉄騎馬って言って魔具の一種だ。元は冒険者のものだったが……今は私の愛車だ」




 そう言いながらバイクに跨る。 


 普段と違うゆるふわ系ファッションと無骨な大型バイク。


 本来なら似合わない組み合わせだが、不思議を親和性を感じる。


 それどころか、倒錯的な魅力があり――――




 「危ない、危ない……新しい性癖に目覚めるところだったぜ」




 亮はオーガさんに聞こえないように呟き、煩悩を追い出そうと頭を振るった。


 一方のオーガさんは、バイクに――――いや、鉄騎馬に鍵を指す。


 キックペダルを勢いよく蹴ると同時にアクセルを回す。




 爆音




 ご機嫌な音楽リズムが静寂な森に響きわたる。


 本当にバイクとそっくりだ。 魔石を利用した道具が魔具……だったはず。




 (じゃ、作ったのは? やっぱり、自分と同じ『あっち側』の世界から来た人間?)




 そんな事を考えていた亮にオーガさんは「おい、後ろ」と促す。




 「森の中でも構わず飛ばすぜ。しっかり掴まりな」




 躊躇したけれども、亮はオーガさんの腹部に腕をまわした。


 一瞬、腹部を擦られたオーガさんが、ビック!と反応したようにも見えたが、気のせいだ。


 たぶん……おそらく……




 オーガさんは、まるで何かを誤魔化すかのようにクラッチをニュートラルからローへ入れ――――


 動き出したと思う暇もなく、急加速をした。




 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・




 冒険者ギルドの迎え側にある飲食店。 


 その立地条件では、当然ながら客の多くも冒険者。


 あるいは冒険者制度のない国から観光に来た旅行客たちが多い。




 「はぁ~」とその一角で美女がため息に憂いを秘めていた。


 何を勘違いしたのか、男が声をかけたがアッサリと玉砕。


 これで9人目だ。




 「あまり憂鬱そうな顔をするな。勘違いされているぞ」




 10人目の男は、今までと違って美女の知り合いだったらしい。


 ピンクの鎧が特徴的で、ヒゲを生やした男。


 亮が最初に知り合った冒険者のリーダーだった男だ。


 女性は、その冒険者の仲間で賢者と言われていた女性だ。




 「ため息だってつきたくもなるさ。だって……あのチートくん、私を庇ってやられちゃっんだよ」




 言いながら感情が高ぶったらしい。


 賢者は、そのままテーブルに伏せて「わ~ん わ~ん」と泣き始めた。




 「酒が入っているな」とリーダーはテーブルの下を除く。何本か、空になったビンが転がっているのを確認した。




 「まだ、若かったのに! これから、この世界を堪能できたはずなのに!」


 「そうだな。『こちら側』に来た異世界人のチート能力は凄まじい。俺たちの仲間になってくれれば、俺たちも、もっと上に――――」




 そう言いかけたリーダーの口に酒のビンが突っ込まれた。




 「ちーがーうーだーろー! 自分の事を考えれるところじゃない! 彼は犠牲になったの! 私たちの弱さの犠牲に!」


 「そりゃ、わかっているさ。俺たちは弱い。だから、強くなりたい」


 「だから、少年を犠牲にした事を自己のモチベーションにしようって魂胆が気に入れないって言ってるのー」


 「じゃ、どうするんだ? やめるか? 冒険者を?」


 「――――ッ! やめないよ。私だって、目指すものがある」


 「だろ? さっさと酔いを醒ませ。直ぐに次の進行の準備を――――おい、聞いているのか?」




 賢者はリーダーの声を聞いていなかった。


 その視線は外に向けられ――――




 「あっ! チートくん! 生きてた!?」




 叫ぶと同時に、店を飛び出した。


 リーダーの制止を振り切って……

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