第7話 簡単! チキン生地のピザ!
トントントン……
リズム良く胸肉を叩いて、平らに伸ばしていく。
形は円になるように整えてやる。
「そうだ。火はあるか?」
大抵の調理器具は冒険者たちが残している。
しかし、火種になるようなものは見つからない。
(最悪、木の棒と板を擦り合わせて火を作るか)
亮はそんな事も考えていたが――――
「あん? ライターならあるぞ」
オーガさんから、渡されたのは、ごく普通の100円ライターだった。
「……これも魔具の一種ですか?」
「さぁ? 魔具ではないと思うぞ。冒険者が使ってるのを見かけて奪ったものだから、原理もわからないが、とりあえず火がつく道具だ。使い方は……」
亮は深く考えるのを止めた。
乾燥した木片に小枝。 その上に残されていた紙を千切りばら撒く。
(紙も時代や国によっては高級品だったと聞くけど、この場合は仕方ないよね?)
亮は火をつけ、油は引いたフライパンを熱する。
そして、叩いて伸ばした鳥の胸肉を入れる。
十分に火が通ったと判断して、フライパンから取り出して皿の上に乗せる。
だが、これで完成ではない。
むしろ、ここから……スタート地点と言っても良い。
野菜を切っていく。 もちろん、賢者のトマトがメインだ。
トマトの輪切り。
ピーマンも種を取ってから同じように輪切りだ。
たまねぎは……適当でいいか。
さらに取っておき!
なんと賢者の残した食材には野菜だけではなく乳製品もいくつかある。
その中からチーズと取り出し、小さく切る。
鳥肉の上に野菜を綺麗に広げ、上からチーズの乗せて……
移動。
レンガで作られたドーム状の物体。
一見するとゴミを燃やす焼却炉だ。しかし、それは焼却炉ではない。
窯だ!
窯と一言で言っても陶芸品を作ったり、いろいろな種類があるが……コイツは食用。
つまり――――
亮は武器を手にした。
それは大剣だ。 どうやら新品らしく汚れていないが、念のために清潔に洗っている。
大剣の刃を横にすると、その上に下準備をした鳥肉を置いた。
そのまま、火を焚いた窯の中に入れた。
そう亮が作っていた料理の正体はピザだ。
生地の代わりに鳥肉を使用した特別品。
ピザの加熱時間は1分から1分30秒。
しかし、問題は温度だ。
理想の温度は430度。プロになると窯が熱によって変色していく様子で内部の温度が分かると聞くが……
亮はプロの職人ではない。
トライ&エラーの覚悟もしていたが……どうやら、ビギナーズラックが訪れたようだ。
「できたぁぁ!」
とろっとろに溶けたチーズの香りが鼻腔を蕩かす。
100%ヤケドをするのが分かっていても食らいつきたくなる魔性の匂い。
その欲望を自制心で押さえ、手にした包丁で8つに切り分けた。
そして、手で掴めるようになる温度まで待ち――――
「いざ! 開食!」
口の中でクリーミーという物が爆発した。
鳥肉という淡白である食材を生地代わりに使う事に不安があった。
しかし、蕩けたチーズのまろやかさが不安ふ吹き飛ばした。
例えるならば――――
素っ気無い態度で素直になれない鳥肉君を、聖母の如く優しく包み込むようなチーズちゃん。
そして、熱によって甘みの増したトマトを代表する野菜たちの活躍。
「ここに1つの物語が完成を迎えた」
亮はその美味さに涙すら浮かべていた。
そう不自然すぎるほどの美味さを疑問に思う余裕すらなく……
亮が自作のピザを堪能するのに夢中になって気がつくのが遅れた。
オーガさんが「じー」と見ていた。亮とピザの交互に視線を動かしながら……それも至近距離で。
「えっと? 食べます?」
「いいのか? いや、しかし人間の食べ物を食すなど、オーガとしての矜持……沽券に関わる問題だ。分かっているか?」
「?」
「分かっているのか?」とオーガさんは二度続けた。
対して亮は「わからないけど?」と返事をしようとしたが――――
「だ・か・ら・な! き、貴様がどうしても、それを贄として奉げるというのならば、き、貴様の好意を汲み取ってやらん事もなくはないのだが……どうだ?」
「……どうだ?」と言われても、少し前からくー!くー!とオーガさんのお腹が泣いている聞かされている亮は――――
「えっと、こちらは貴方さまに奉げるために作った一品です。もしも、お許しいただけるとしたならば、どうか一口だけでも……」
すっごく遜へりくだってみた。
「そうか! それじゃ、遠慮なく!」
獣の如くスピードでピザに手を伸ばし、口に放り込んだ。
その間、僅かに0.5秒。
「ほくほくほく! あっちち! でも美味い! う ま い ぞ お お お ぉ ぉ ぉ ! !」
オーガさんは野獣の咆哮と聞き間違えるほどの絶叫で美味しさを表現した。
「いやぁ、お前凄いな。 これが料理か! 人知の極みか!」
「凄い! 本当に凄い」とオーガさんに褒め称えられ続け――――
「よし、お前! 毎日、私のためだけに料理を作ってくれ!」
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