第6話 鳥肉の解体終了 そして調理開始
名状しがたい感覚。
首の骨を刃物で切断するという初体験。手に伝わる感覚は、あまりのも生々しく。
料理の下ごしらえとは言え――――
「えぇい南無阿弥陀仏!」と亮はやり遂げた。
とてつもない疲労感と共に達成感。
命を頂くという行為がどれほどまでに尊いのか、理解した気になっていく。
食べ物で遊んだり、粗末にするのダメ! 絶対!
亮は、自身の人生観までもが変わった事を理解した。
さて……
ここまで来ると食材は、焼く前の北京ダックみたいだ。
そんな感想を亮は持った。
しかし――――
頭部と足の処理という難関を越えた直後に向かえた工程は最難関だった。
「どうした? 手が止まっているぞ?」
今まで物珍しげに眺めていたオーガが不思議そうに尋ねる。
「いや……うん。なんでもない」
この次に行うべき事は内臓の処理だ。
亮は覚悟を決めた。
しかし――――
「お前、そこはアソコだぞ? いわゆるアースホールだぞ? そこで良いのか? 本当にソコを切ってしまうのか?」
外野のオーガがうるさい。そして、なぜ英語?
亮は集中力を高めて鳥のアースホール……いや、肛門に切れ目を入れる。
肛門を広げると内臓を取り出していく。
……もちろん、素手でだ。
「アッー! やっちまったな!」とオーガさんは、なぜか楽しげだ。
汚物や血が肉につかないように内臓を取り除いた。
ひとまずは、これで終了だ。
胸肉とか、ささみとか、もも肉とか……休憩をしてからだ。
「ところで、ここに食品を保存するような場所と言うか……温度が低くて……」
「冷蔵庫の事か? だったら奥にあるぞ」
「あるのかよ!」
オーガさんが指した方向に行ってみると、確かにあった。
本当に冷蔵庫だ。
しかし、電力は? 少なくともコンセントは見当たらない。
「流石に原理までは知らないぞ。私が生まれた時には、既にそこにあったからな」
「そういうものなのか」と亮は冷蔵庫を開ける。
ひんやりとした空気は馴染みの物だった。
しかし、中身は食料がそのまま保存されていた。
なんら加工されてない動物たちが無造作に詰められている。
わりとグロテスクな光景だ。
「……衛生状態は大丈夫かな?」
一抹の不安を覚えながらも亮は鳥肉を冷蔵庫に閉まった。
さて、亮には早急に対処しなければならない問題があった。
それは――――
「鳥を捌いたのはいいけど、何を作るかまで考えていなかった」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
オーガさんの言うとおり安全地帯といわれていた場所に冒険者たちの姿はなかった。
あんなにも凄まじい戦闘だったのに一滴の血痕すら残っていない。
「私には、よくわかんない話だが、なんでもダンジョン内で変形した地形や汚れは知らない間に直ってしまうらしい」
オーガさんの説明を「へぇ~そういうものなのか」と納得して亮は目的の物を近づいた。
ここは安全地帯でも賢者が料理をしていた場所だ。
まだ、彼女の荷物が残っていた。
「ソイツがお前の探し物か?」
「あぁ、彼女が野菜を持っていたからね。そのまま置いて帰ったなら、腐るよりも使わせてもらった方がいいだろう」
そう言うと遠慮もなしに亮は賢者の――――女性の荷物をまさぐり始めた。
我ながらデリカシーに欠ける行為だと自覚しながら……
「たしか、
彼女の荷物には野菜が多め、他にも食材が保存されていた。
どういう仕掛けだろうか? 先ほどの冷蔵庫ではないが、保存が利くように野菜の周囲はひんやりとしていた。
「あぁ、コイツは……たぶん、魔具って言う物だ」
「マグ?」
「そのまんま、魔法の道具を略して魔具さ」
「それじゃオーガさんの家にあった冷蔵庫も?」
「いや、あれはさっきも言った通り、原理もわからない。過去の遺産だよ」
「なるほど、しかし、魔具か……便利な物があるんだな」
しかし、オーガさんはため息をついたかと思うと、こう続けた。
「私たち魔物の体から魔力を秘めた石。魔石ってのが取れるそうだ。それが魔具の材料だ」
「それは……」と亮は言葉が出なかった。
「冒険者がダンジョンに来る理由は、それぞれ違うらしいけどよ。私たちを殺して、魔具を作りたいって連中も大勢いるんだよ」
獰猛な笑みと瞳にギラギラとした光が輝いていた。
それは、きっと……
怒りの表情なのだろう。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
さて――――
亮は食材を確認するとメニューを決めた。
持ってきたのは、先ほど自身が捌いた鳥の胸肉。
まな板の上に乗せると……
包丁を逆手持ち。
そのまま柄の部分で鳥肉を叩き始めた。
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