レンタルボディ

紅鶴蒼桜

レンタルボディ

「ファァ、この手にも飽きてきたかなぁ」

私は伸びをして、身体を伸ばす。

うーん、やっぱり性能重視だけじゃなく、細っそりとした方がウケが良いのかなぁ。

両手を見て呟く。

「さて、と」

ネットで身体のパーツショップのサイトを出す。サイトではカラフルな背景に体の色々な部分が言葉どおりに陳列されている。

私が「レンタル・手」と検索すると、何万もの手の3D画像がステータス付きででてくる。

何回見ても凄い量だ。

ところで、私は買い取りでなくてレンタルの方を主に活用している。

割安だし、だからファッション感覚で色々と付け替えれるからだ。

これには私は何度もお世話になっている。


「今日はこれにしようかな」

指先は細っそり、それでいて少しぷにぷにとして指軸が長く、全体的に綺麗系の手を選んだ。

ついでに胸、腰、足などもレンタルしよう。

結構夢中になってしまう。

色々選んでポチッと押したら、転送装置の上へ。

これは主にネットで買い物した時に買った物がここに送られてくるんだけれどレンタルボディは身体のパーツを交換する訳だから私が身体ごと入らないとその部分も交換出来ない訳だ。

コール音が鳴って、そんなに時間がかからずにパーツの交換完了。

今回はどうかな。

鏡の前で体のチェック。うん、いいかも。


次の日は友達とショッピング。

「その身体可愛い」

「服装と合っていて綺麗」

「いいや、皆んな可愛いじゃねーか、はは」

などとお互いの身体を褒めながら楽しんだ。

色々な店を回って途中スイーツ店で甘いひとときを味わいながら笑って談笑してた。

「じゃ、またね」

「また」

と今日は解散。

帰り道、

「皆んなも結構可愛いかったな。私ももっと頑張らなくっちゃ」

ふつふつと湧き上がる思いに、軽やかなステップを踏んで家路を急ぐのだった。


そして今日も今日とて身体を選ぶ。

「今日は何がいいかなぁ」

と、パーツ屋さんからメールが。

開けてみると、沢山御利用頂いたので、特別な部屋での買い物がアンロックされたらしい。

つまり、もっと凄いパーツがレンタル出来るようになったって事!?

勿論直ぐにパーツ屋のサイトにアクセスしてみる。

右下にVIP部屋の文字が。

早速クリック。

そして、

「ほぉこれがVIPルームかぁ」

いつも見馴れているポップな雰囲気とちがい、シックな色合いの部屋に、アイドルの様なデジタルマネキンに色々なパーツが取り付けられていた。

「これはまとめ買いする人もいるんじゃないの?」

と言う様な完成度だった。

それが何体も並んでいるからたまらない。

色々迷うなぁ。

ふと見ると、見馴れないパーツが。

頭だ。

いつものパーツ屋では無かったものだ。

VIPルームでの特別なパーツというところか。

まぁ、頭が良くなりたいと思う人もいるしね。

と思いつつも、

「知力がトップクラスに一度はなってみたいよねぇ」

迷わずポチッとクリックした。


「はぁ、すごかった」

他にも凄いパーツだらけで、ハッキリ言って1回じゃ所謂いい物全部は見てられない。

結局色々なパーツをレンタルして今日は終わりにした。

転送装置のもとへと向かう。

「では、どんな身体になるのかなあ」

やっぱり気になるのはVIPになって新しく追加された「頭」だ。

どの位良くなるのか。思わず顔がにやけてしまう。

テストで満点連発したらどうしよう、とか思ってしまう。

ワクワクして待つ。

コール音が鳴って期待が膨らんだその時、意識がふっと切れた。


気がついたら何処かの倉庫らしき所にいた。

さっきまで部屋にいたのに。

辺りを見回そうとするが、顔が動かない。

身体も。どうして?

目は動く様だ。

眼球を動かして辺りを見回す。

男がいた。

何かの作業をしていた様だったけど、私が辺りを見ていることに気づいたらしく、こちらに寄ってきた。

「ああ、気がついたんだね」

と男が話しかけてきた。

「何なのこれは!」

と、叫ぼうとしたが声が出ない。

が、男は分かったようで、

「ふふ、ここはパーツの倉庫、といった所かな」

男は一人で色々呟く。

「昔はね、身体の人身売買が有ったらしいけどね。僕が入って来る前の事だけど」

続けて、

「今は違う。頭を交換するとか」と言いながらこちらを見て、「馬鹿な奴がいるからさ、頭が無ければ身体は動かないのに」

と、私の頭をポンポンと叩いて、

「まあ君の身体のパーツも十分にレンタルで使わせてもらうよ。まあ、それでこの商売が成り立っているのだけれどね」

ゾッとした。

今までレンタルしていたパーツは攫ってきた人達の体の一部だったのか。

なんか涙が出てきた。

それを見て男は、

「へぇ怖いのかい」

と、勘違いして言葉を返してくる。

「でも心配要らないさ。君の頭も回路の一部になるのだから」

男が後ろを指で指す。

目を凝らして見ると、

ひっ!

液体に浮かんだ人の頭がコードで繋がっている。

何百人も。もしかしたら何万人も。

「コンピュータってさ、まだ人の脳に追いついていない所もあってさ。まあ現実に人間が使っているのはたったの数パーセントだけどね。だから、100パーセント使えればかなり凄いんだ」

一呼吸置いて、

「その脳を何千、何万と繋いだらスーパーコンピュータなんて目じゃないほどの物になるとは思わない?まぁ君もその一部になってもらうけれどね」

と、こちらに来てヒョイと私の頭を持ち上げた。

噛んでやろうとしたが口が動かなかった。

頭がずらっと並んでる水槽に入れられ、他の頭と同じ様にコードが繋がれた。

水槽の外を見てみると男がニヤニヤ笑っているのが見える。

憎たらしい。ぶっ殺されろ。

そこで私の意識がプツンと途切れた。

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