紫陽花とかたつむり
朝からぼくは全裸でベッドの上。
胡座で毛布被ってるのが気持ちいい。
朝っていってもそろそろ10時だけど、構いはしない。
今日は日曜日だから、時間は気にしたほうが負け。
背中に直接当たる、温かくて柔らかな感触。
堪らない。
ベッドの側の窓を開けてみる。
わりとすぐ側に、隣の家のブロック塀と、赤と青と紫の丸い紫陽花。
ブロック塀の上には、紫陽花の葉に隠れるみたいにして、かたつむりが見える。
目を凝らさないと見えないような、霧みたいな雨が降っている。
彼はきっと、雨宿り。
「こらこら、エアコンつけてるんだから、窓閉めなさいよ、お前」
パンツ一枚のやつが熱そうなマグカップをふたつ持ってくる。
「はいコーヒー」
「ありがと」
ひとつ受けとると、ふわり、砂糖の混じった温かい匂いが、湯気と一緒に鼻に届いた。
「なに見てんの。パンツくらい穿けよ」
マグカップに口をつけながら、横に滑り込んできて一緒に外を覗くから、やだなあ、これがいいんじゃんか。脱がしたのお前だろ、って、ふうふう、ぼくは猫舌だから、このコーヒーはまだ飲めない。
「かたつむりがいる」
「どこ。……、あー、……触んなよ」
「触らないよ」
葉っぱの下のかたつむり。
お前は紫陽花が好きかい。
「なあ、あの紫陽花とかたつむりはさあ、どっちが先に恋をしたと思う」
「なんじゃそりゃ」
「なんとなく」
答えなんてない。
鶏と卵みたいなものだ。
「うーん、そうだなあ、かたつむりだな」
思っていたよりも早い答えに、ちらり、横を覗き見ると、ばっちりと目があった。
にやり、笑う。
「どうして。ぼくには、紫陽花のほうがかたつむりを守ってやってるように見えるのに」
「あのかたつむりは、きっと雨が降る度に紫陽花に会いに行っているんだ。何度も何度も現れるから、紫陽花も情が移ってかたつむりを好きになるんだよ」
「そうか」
「そうだろ。お前は、俺を好き?」
「好きだよ」
好きだよ。
好きで好きで、時々息ができなくなるくらい胸が押し潰されるほど。
この気持ちは、かたつむりのそれだろうか。
それとも、紫陽花の。
こんな痛くて泣きたくなるような気持ちを表すのは、恋、なんて言葉で、本当に正しいだろうか。
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