第1章 終わりを告げて

第1話 義勇軍の『遊撃隊』

カトレア帝国 果実月23日 朝


「お断りします」 


受付に座る髪の長い女性は、きっぱりと告げた。

「なんでぇ?!いいじゃん!ほら、立派な鉄の剣もあるし!」

女性に話しかけているのは甲冑を着た男とその仲間と思われる者達だ。

立派に飾りを散りばめられた剣を、受付嬢に突き付ける。 

「ほらほら、俺ら、ちゃんと戦う意思あるし!」

「俺らだって本で見た勇者みたいに活躍したいんだよ~」

「困ります」

女性は眉を下げ、再度首を振る。

「正規の書類を持ってきていただかないと、指揮官にお伝えすることができません」

「またそれかよ」

うんざりした顔で、男がカウンターに身を乗り出す。

「正規書類なしでスカウトされた人間もいるって聞いたぜ?」

「それは指揮官のお眼鏡にかなった者たちが・・・」

「なな、お願い。その指揮官に会わせてくれよ。俺らが自分で頼むから」

「それは・・・」

女性が困った顔で視線を泳がせる。

「絶対、活躍できる自信があるんだよ」

「・・・ですが」

女性が眉を吊り上げ、大きな声で告げる。

「イレギュラーは認められません。次は役所で住民票を発行してもらった後、情報部に審査を要請してください」

「・・・んだよ」

次の瞬間、男の手が伸びて、女性の胸倉をつかんだ。

「・・・!!」

「御託はいいから、とっとと指揮官を出せ」

ドスの利いた声。

女性は小さく悲鳴を上げた後、縋るように視線を兵施設へ向けた。


「女の子に暴力振るうの?ひどいね」


声のした方を振り返る。

そこには隊服に身を包んだ、小柄な少女がいた。

「・・・なんだテメェ」

「ルビーちゃんを離して。私の家族に乱暴しないで」

少女は男を睨み上げる。

「は、家族?ふざけてんのか」

「レ、レベッカ隊長・・・・!」

男の仲間が少女に手を伸ばしたとき、女性が震える声で少女の名を呼ぶ。

「た、隊長・・・?」

「こんなガキが?」

困惑する仲間達を後目に、レベッカと呼ばれた少女は微笑む。

「安心して。私、家族を傷つける奴らは懲らしめるんだから」

笑顔でそう言うと、少女は一瞬で姿を消した。

「な?!ど、どこに・・・」

驚きのあまり、男が女性の胸倉から手を離す。

仲間達がナイフを握りしめ辺りを見渡す。

「遅いなぁ」

「!」

男の頸元にカトラリーが向けられている。

視線だけ動かして下を見ると、仲間達が全員ひれ伏して動いていない。

「・・・・な・・・・」

「このお仲間を連れて帰ってよ。あなたと家族になる気はないから」

「・・・・ぐ・・・!」


「____おい、ベッカ。どういう状況だ」


鋭い声が飛んでくる。

頸にカトラリーが当たらないように頭を動かすと、銀髪のサングラスをかけた青年が、__こちらに歩み寄ってきていた。

「あ!アル!この人ね、ルビーちゃんの胸倉掴んでたの。「指揮官を出せ」って」

にこにこ笑ったまま答えるレベッカに、青年は溜息をつく。

歩みを止めずに。

「・・・3度目か」

青年は男の前で止まると、静かに告げた。

「ここはお前のような者が来る場所ではない。これに懲りたら二度と来るな。あと・・・」

青年の顔が歪む。

今まで無表情だったその顔が、明らかに、「怒り」で歪んでいる。

「____指揮官を軽々しく呼ぼうとするな」

それだけ告げて。

気高いそのマントを翻し、方向を変え、歩みを再開する。


「何事ですか!」

騒ぎを聞きつけた兵士が、小走りでこちらに駆け付けた。

「この人たち、ルビーちゃんに乱暴したの。帝都の中央区まで返してきてくれる?」

「は」

慣れた手つきで急所を突き気絶させ、兵士たちは彼らを担ぎ上げて外へ出ていった。

レベッカはスカートをまくってナイフをしまうと、受付嬢の元へ向かう。

「大丈夫?痛いところはない?」

「あ・・・は、はい。ありがとうございます」

ルビーは恭しく一礼する。

「お礼はいいよ。家族なんだから、助け合わないと」

レベッカはじゃあね、と手を振って青年の行った方向へ走り去った。

静寂が戻った。



同時刻  ベルケイド荒野


何もない地帯。

そこに、テントを張って寝転ぶ者がいた。

「あー、あっちぃ。異常気象じゃねえの、これ?」

胸元をはだけさせ悪態をつく少年を、背後から分厚い本で殴る不機嫌な少年。

「五月蠅い馬鹿。いつまで休み気分でいるんだ。無線でそろそろ来る、ときたんだぞ」

「はいはい。じゃ、やりますか」

悪態をついていた男は立ち上がり、どこからかエッジを取り出した。

ブーメラン型で、ナイフが出し入れできるもの。

小綺麗に手入れされており、新品と見紛うほどのものだ。

テントから2人が出ると、既に他の2人が立っていた。

気配に気づき、2人が振り返る。

「お、やっと来たか」

大剣を手にした少年が朗らかに笑う。

「俺が悪いんじゃない。コイツのせいだ」

相変わらず不機嫌な少年は溜息をつく。

「まぁまぁ、いいだろ?ちょっとぐらいさ」

エッジを器用にくるくると回しながら答える少年。

「・・・・」

銃のシリンダーを撫でる仮面の少年は、ずっと口を開こうとしない。

「来たぞ」

嬉しそうに言う大剣の少年。

確かに目の前に、オートマタが何体と押し寄せてきている。

「情報部から100体ほどだと情報が来ている」

仮面の少年が早口で言う。

「了解了解。じゃあ、いっちょやりますか!」

エッジから刃を出し、少年は敵を軽く睨みつける。

「じゃあ、いつも通り俺は後方へ回る。しくじるなよ」

それだけ言って、分厚い本を読みながら後方へ回る少年。

大剣を持った少年が走り出した。

始まる。

オートマタが光線を放ってくる。

それをひらりひらりと避け、最初の一体の頭部を破壊する。

「おらよ!」

少年の頭をかすめ、エッジが1体目のオートマタの背後のオートマタに突き刺さる。

「ちょ、危ないだろうが!」

「うるせー、ターゲットがそこにいただけだろうが!」

「何だと?!」

2人は掴み合いを始める。

「・・・喧嘩は、後で」

銃の少年は、二丁拳銃で2人に襲い掛かっていたオートマタを撃ち抜き、華麗に着地する。

「「・・・ご、ごめん・・・・」」

「馬鹿どもが・・・」

後方の少年が、悪態をつきながら防御魔法を彼らにかけた。

「サンキュ!」

「さっさと終わらせるぞ、面倒だからな!」

悪態をつきながら、サポートを続ける少年。

「わーってるよ!〈天地崩壊〉」

少年の大剣が焔を纏い、一気に20体薙ぎ払った。

「〈蛇刃鬼毒〉!」

エッジの刃の形が変形し、切っ先が紫色に変化する。

それに切り裂かれたが最後、その身を破壊されてゆく。

「・・・」

腰のホルダーに挿していた銃と交換し、少年は攻撃を躱しながら銃を放つ。

もう片方の手から、爆薬を3つ取り出し投げつける。

それらは勢いよく爆散し、オートマタのフレームを破壊した。

「うっし、これでとどめ!」

大剣で最後の一体を破壊した少年は、剣を鞘にしまう。

「すぐ終わってよかったな」

エッジの刃をしまいながら頷く。

「・・・戦闘中に喧嘩をする馬鹿どもが。コイツが止めてくれたからいいものの、一発黙って殴られろ」

本を閉じ近づいてくる少年が、2人の少年の頭を同時にはたいた。

鈍い音が脳内に響く。

「「いてっ!!」」

「・・・・」

銃の点検を黙ってしている少年は、ちらりと2人を見た後、また作業に戻る。

「さて」

はたいて満足した少年が、無線を繋ぐ。

『はい、情報部です』

「遊撃隊だ。今討伐を終えた」

『お疲れ様です。すぐに、ご帰還してください』

そう言って、無線が切れる。

「おい、お前ら、帰るぞ」

「了解」

テントを撤収し、専用車に乗り込む。

エンジン音のみが、荒野に響き渡った。



遊撃隊。

6つある隊のどこにも属していない者達。

そのメンバーは4人。

全員が異例の「6つの隊どこの隊にも属さない」という届を出した者たちだ。

指揮官に特別に許可された隊で、いろいろな隊の助っ人や小規模な任務を請け負う。

 


_____誰か、姉さんを助けて_______

「?」

銃の手入れをしていた少年が、振り返る。

_____お願い、私を、血で縛られている私を______

_____    ______

だが、声の主はそこにはおらず。

彼らの専用車は、荒野を去った。

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