4/5 主は怒りを以て師を興すからず(訳:そっちは遊びでも、こっちは真剣なんだよっ!)
「しかしこのような狭い空間では我の本来の力が発揮できないではないか」
「そう言われても外は雨だし」
「ではこの部屋の中を探索するとしよう」
「えー……。猫の気分でそこら中に飛びかかったりしないでね」
とにかく機敏で、高いところでもあっという間に登っていった印象がある。
私が捕まえてもするりと抜けて走り去っていった。
ん、あれ。
もしかして私が鈍くさかったのか。
「これは何だ?」
「んー、それはお酒、チューハイね。コーヒーと違って、絶対に飲んじゃ駄目だからね」
「あれよりも危険な飲み物なのか!?」
「ほら、有名な夏目漱石の小説だと猫は最後にお酒を飲んで死んじゃうのよ」
「そんな危険物がなぜここに……」
「いや、それは日々のストレスがね……人間には必要なの」
ランランと目を輝かせながら缶を見つめるレオ。
なんだか様子がおかしい?
「このギラギラとした幾何学模様を見ているとなんだか高揚する……」
「飲まずして酔っ払った?」
「呼んでる……機関が、カノッサ機関が呼んでいる」
「変な電波受信しちゃったよ」
やっぱりこのパッケージすごいな。
ダイヤカット缶っていうんだっけ。
あとで隠すか。
「何の変哲もない、至って普通の部屋だ」
褒められているのか貶されているのか、複雑な気分。
「タンスを開けたら異空間への扉が――」
「あっ、ちょっとそこは」
なんとなくお約束な感じはしていた。
下着の入ったタンスを開けるなんて展開は。
「…………」
「…………」
無言で中を見つめるレオと、それを見つめる私。
レオは猫だから羞恥心というものは無いのかもしれない。
だから恥ずかしがる必要もないのかもしれない。
いやでも!
見た目男の子だし!
意識するなという方が無理なモンでしょ!
「むっ……」
微かに鼻を鳴らすレオ。
おもむろに首を下げる。
「匂いを嗅ごうとしたらどうなるかわかってるでしょうね」
「はっ! とんでもない殺気が!
「この手が血を求めている……くっ、鎮まれ……オレの右腕よ!」
「もしかして爪とぎがしたいの?」
空を掻いて悶え苦しむ演技のレオに対して冷静に対処する。
「良いのか!」
「賃貸だから駄目だよ」
「むむっ。あの柱など消えない傷跡を刻むのに丁度良いというのに」
「私の心に傷が残るわ」
「ていうか、結構爪伸びてるわね」
「えっ」
ギクッ、と。
そんな音がした。
「爪切ってあげる」
「い、いやいやいやいやそんな滅相もございません」
急に超低姿勢。
「何いってんの、昔はよく切ってあげたじゃない」
めちゃくちゃ抵抗されたけど。
「あれは横暴だ! ちょっと庭の木で爪とぎして花壇の花びらで試し切りをしただけじゃないか! あれから定期的に爪を切られるようになってしまった!」
それが原因で母の怒りを買って、私がレオの爪切りを命じられたのだ。
「ほら、いいから座りなさいな」
私は爪切りを用意してクッションの上に座る。
ぽんぽん、と隣に座るよう促す。
「くっ、組織の犬め! オレは権力には屈しないぞ!」
言葉に反して、怯えた子鹿のように震えている。
私に加虐心は無いんだよ。
ホントだよ?
「もうっ、さっさとこっち来なさい!」
「嫌だっ!」
抵抗するレオを無理やり座らせる。
流石に結構力が強い。
一筋縄ではいかず、もつれ合い馬乗りになって強引に指を出させる。
ふと、姿見にその姿が写った。
そこに居たのはいたいけな男子高校生を
紛れもなく、私だった。
「……あれ、急にどうしたんだ?」
大人しくなった私を不思議そうに見つめる。
くそぅ、その目がいけないんだって!
冷静になって、恥ずかしさがこみ上げてくる。
私が顔を紅潮させてその場から離れると、レオは少し不服そうな表情を浮かべる。
「もうじゃれ合いはおしまいか?」
そっかー、この子と猫のようにじゃれ合うとあんな感じに映るみたい。
いやいや、犯罪だろ。
猫のときにやっていたように、バスタオルで視界を隠すと大人しくなったのでその隙にパパっと終わらせちゃいました。
「数多の雀を冥府送りにしてきた
きれいに切りそろえた爪を見ながらしみじみと呟く声がする。
「深爪しない程度には残したから大丈夫でしょ」
「これでは
「いらない」
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